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なぜジブリ作品では「専業声優」以外を起用するのか 「芝居の上手さ」より重視したものとは?

スタジオジブリは世界的なヒット作を次々と生み出していますが、特に近年では専業の声優ではない俳優などが主役やメインキャラに起用されるケースが増えています。それはなぜなのか? 宮崎駿監督らの発言をたどりながら見えてきたのは……?

声優の技術や対応力は評価しているが……

高畑勲監督が今井美樹さんの起用を熱望した、『おもひでぽろぽろ』 (C) 1991 岡本 螢・刀根夕子・Studio Ghibli・NH
高畑勲監督が今井美樹さんの起用を熱望した、『おもひでぽろぽろ』 (C) 1991 岡本 螢・刀根夕子・Studio Ghibli・NH

 木村拓哉さんに岡田准一さん、長澤まさみさんに有村架純さんなど、スタジオジブリの作品は、いわゆる「専業声優」以外の人材を多くキャスティングすることで知られています。

 厳密にいえば、職種として俳優と声優に明確な区分はありませんし、もちろんスタジオジブリが制作するような大作劇場アニメのキャスティングとなれば、その決定にさまざまな要素がからんでくることは想像に難くありません。

 その上で、高畑勲作品と宮崎駿作品を両軸として、スタジオジブリ作品における「専業声優」以外の起用がどのように始まったのか、制作や演出の面から考えていきたいと思います。

 スタジオジブリ作品において、実写や舞台で活躍する俳優を中心にメインキャラの役を固めるようになったのは、一般的な人気が高まってきた90年代半ば、特に高畑勲監督作品では今井美樹さんと柳葉敏郎さんを主役に登用した『おもひでぽろぽろ』(1991年)以降、宮崎駿監督作品では『もののけ姫』(1997年)以降で、その傾向が強いように思います。

 こうしたキャスティングの傾向を語る際に、よく取り上げられるのが『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文藝春秋)に収録されている宮崎監督の発言です。

「映画は実際時間のないところで作りますから、声優さんの器用さに頼ってるんです。でもやっぱり、どっかで欲求不満になるときがある。存在感のなさみたいなところにね。特に女の子の声なんかみんな、「わたし、かわいいでしょ」みたいな声を出すでしょ。あれがたまらんのですよ。なんとかしたいといつも思っている」

 これは『となりのトトロ』(1988年)で、なぜコピーライターである糸井重里さんを、サツキとメイの父親役に起用したのかについて語っているくだりです。

 この発言を読む限り、宮崎駿監督はおそらく、声優の芝居の技術や、さまざまな役柄に対応できる点を評価した上で、それらを超えた存在感を求めているようです。

 また高畑勲監督は『おもひでぽろぽろ』の制作にあたり、「今井さん以外、考えられない」「彼女(今井)がやってくれないんだったら、この企画はボツです」と鈴木敏夫プロデューサーに詰め寄るほど、今井美樹さんの登用にこだわったといいます。

 この時点で今井美樹さんは、女優としての堂々たる実績は残していましたが、ことアニメの声優としては未知数といっていい存在でした。

「職種として俳優と声優に明確な区分はない」と先に書きましたが、こと演技の方向性や性質については同一とは言いがたく、過去何度も議論を巻き起こしてきたほどです。

 筆者なりの見解をいえば、実写や生身での芝居に比べて、ビジュアルとしての情報量が少ないアニメでは、それを補うためにより感情の振れ幅が高い演技が要求されているように思います。実写や生身の芝居を主にやっている役者がアニメのアフレコに挑戦した時、感情が抑え目のいわゆる棒演技に感じられるのは、そのためではないでしょうか。それでも高畑勲監督は、今井美樹さんの登用にこだわったのです。

 以上のふたつの例からも、高畑勲監督と宮崎駿監督のキャスティングは、声の芝居の技術的な完成度よりも、演者が持つ生の存在感を重視しているように思います。その最たる例が『風立ちぬ』(2013年)の庵野秀明監督の登用でしょう。

 では、そうしたキャスティングの指向はいつ生まれたのでしょうか。

【画像】「俳優」でない人も出演! 役にハマっていた「ジブリ作品」の主人公たち(7枚)

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