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アニメがヒットしても、アニメーターには還元されず…業界の課題とNFTが拓く可能性

様々なアニメが社会的ヒットを生み出す一方で、アニメーターの労働環境問題は解決されることなく未だ議論され続けている。本記事では『機動戦士ガンダム』『呪術廻戦』などを手掛けてきたアニメ業界人らにインタビューを行い実態を明らかにしたうえで、新人育成やNFTオークションなど、状況改善につながる次の一手について聞いた。

馴染みのキャラ絵、いくら支払われている?

アニメーターの机
アニメーターの机

 アニメーターの労働環境問題、特に賃金問題は解決されることなく何十年も議論され続けている。昨今では社会問題としてTV番組の特集で取り沙汰され、政治的議題に据えられる機会も増えてきた。

 そんななか、当事者である「作り手」たちは実態をどう捉え、改善に向けてどう動いているのだろうか。アニメ産業に深く関わる関係者らに実態についてインタビューを行い、新人育成や状況打破に向けた最新事例「NFTオークション」についてうかがった。
(取材・文=いしじまえいわ、編集=沖本茂義)

「TVシリーズの動画は今、1枚250円程度だと思います」

 そう話すのは『呪術廻戦』総作画監督や『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』キャラクターデザインなど、人気アニメの中核を担う実力派アニメーター・西位輝実氏だ。

『呪術廻戦』「幼魚と逆罰編」新ビジュアル (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
『呪術廻戦』「幼魚と逆罰編」新ビジュアル (C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

 アニメーターの賃金はそれを何枚描いたかで決まる。新人がまず担当する「動画」の多くの場合は出来高制であり、手がけた作品がどれだけヒットしても単価数百円以上の報酬が支払われることは基本的にない。

 昨今のアニメでは、線が多く緻密な作画が求められるケースが増えている。作風にもよるが、総じて線が少なかった時代のアニメに比べ、動画に要する労力は増大しているのだ。

 もちろん、実力やキャリアを積めば、西位氏のように「作画監督」と呼ばれるより収入が高い役職に就ける可能性も出てくるし、キービジュアルといった「作品の顔」とも呼べる絵を描く機会にも恵まれる。

 しかし、それでもまだ苦しい現実がある。

「登場キャラクターを描いたキービジュアルも、線画だけだと6万円くらい、交渉して上げてもらってようやく7,8万円くらいでしょうか。10年前は10万円くらいでしたし、私の上の世代の方はもっともらっていたそうですが……キービジュアルやパッケージなどのグラフィックデザイナーさんの方が(ギャランティが)多いのが普通ですね」

 西位氏のような中核クリエイターによるキービジュアルに支払われる金額としては、6万円というのはショッキングな数字だ。「(キービジュアルのギャランティが)今以下になると、キービジュアルは時間もかかるし、断って違う仕事を入れたいです」と西位氏は言うが、確かにアニメ―ション制作現場の待遇問題は深刻なようだ。

●アニメーターの会社員化によるメリットとデメリット

 新人アニメーターの仕事は、低単価で出来高制であるため、少しでも数多く動画の枚数を手掛けることが必要となる。しかし、数をこなすことに終始していては自身のスキルアップのために勉強をするような時間的余裕は持ちようがない。若手が育たなければ、業界の未来が厳しいものになることは避けられないだろう。

「最近はデジタル作画環境を自宅に整えて、リモートで仕事をする人も増えました。それ自体はいいのですが、若いうちから他人と接することなく仕事をしていると技術的に伸び悩むケースも多いようです。私が若い頃はスタジオでの仕事が基本で、先輩の仕事に刺激を受けたり、貴重な資料を先輩に借りてコピーさせてもらったりしていました。スキルアップするには良い環境だったと思います」

『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険DU製作委員会
『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』(C) LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社・ジョジョの奇妙な冒険DU製作委員会

 新人アニメーターの境遇が様々な面で変化する一方で、アニメーターを正社員として雇用する制作会社が徐々に増えているという。働き方改革の推進や人材の囲い込みなど企業側の目的は様々だが、正社員雇用は安定した収入や福利厚生などワークライフバランスを重視する若手のニーズと合致している。一見双方にとって良いことのように思えるが、これが成功するかどうかは「未知数だ」と西位氏は言う。

●中国黒船来航でアニメ業界は救われるか?

 アニメーターの低賃金問題については、アニメーションの制作予算そのものが少ないことを指摘する声も多い。そんななかで注目されるのは、近年存在感を増す中国企業の存在だ。

 2016年頃、中国企業が日本のアニメの製作委員会に積極的に出資し、自ら企画・製作して日本の制作スタジオに発注をする、もしくは日本に子会社を設立して制作を手掛けるといったケースが目立った。現在でも実は中国資本が入った日本産アニメは多数ある。海外の潤沢な資金は日本のアニメーターの待遇改善に寄与したのだろうか。

 西位氏は「制作費が増え、一時的にクリエイターに還元されることはあった」としつつも、総じて持続的なものではなく、現場の改善には至っていないという。

「中国企業は日本のアニメ業界の商習慣にこだわりませんから、日本の業界人から見ればずさんと思えるような計画で制作を開始し、ダメだと判断したら制作途中でも遠慮なくプロジェクトを打ち切ります。中国資本を頼りに制作をはじめ、結局完成しなかった作品の数はかなりのものになると思います」

 やはり他人頼りでは状況の改善はできないと考えた方がよさそうだ。

【画像】名作多い! 西位氏&植田氏の手掛けたアニメ(13枚)

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