アニメ化されやすい森見登美彦作品 今後の候補は? 自由な作風が映像にも反映される
今後、アニメ化されそうな森見登美彦作品は……?

さてそうなってくると気になってくるのが今後の展望です。森見さんは多作であり、他にも多くの作品を発表されています。上記以外で、今後「アニメ化」されそうなものはあるのでしょうか。例えばデビュー作『太陽の塔』は「四畳半」シリーズと同じく、アクの強い京都の大学生が主人公。すでに私たちの知る森見ワールドは完成していますし、かしのこおりさんによってコミカライズもされているので、アニメ化も十分考えられますが、いかんせん他作品と比べると静的なため実写作品の方が魅力を抽出できるかもしれません。
また直木賞候補となった、2016年刊行の『夜行』はどうでしょうか。舞台はおなじみの京都です。物語は10年前に起きたある女性の失踪事件から幕を開け、かつての大学の仲間たちが空白の10年間に起きた様々な怪異によって紡がれる新感覚ホラー。これまでの森見登美彦作品のような朗らかさはなく、絶えず死の香りが漂う不穏さが魅力で表紙絵の女性もアニメ的です。少々、難解で解釈が人によって異なる点は、テレビアニメよりか映画向きかもしれません。
また、同じく直木賞候補となった話題作『熱帯』は森見さんが10年近い苦悩の果てに完成させたもので、主人公はなんと森見登美彦さんご本人。誰も最後まで読んだことがない小説『熱帯』をめぐる小説そのものを題材にした本作は、もしかしたら最も「アニメ化」が難しい森見作品かもしれません。
小説の映像化=実写という業界のイメージ自体を変えてしまった森見登美彦さんは、さらにそのイメージをここ数年、ご自身で塗り替えようとしています。それをさらにアニメ業界がどう捉えるのか? そもそも一旦、距離をとっていくのか? クリエイター同士の知的な鬼ごっこに、勝手ながら胸がときめきます。
(片野)