手塚治虫が執拗に描いた「戦争」の真理 「一度傾いた流れは止められない」?
「子供を戦場に行かせないために」母親の悲しき行動

●『ブラック・ジャック』
続いては『ブラック・ジャック』から「戦争はなおも続く」というエピソードです。ブラック・ジャックが担当したのは、椎間板ヘルニアを患う青年。青年の母親は「早く治して息子を戦地へ送り出したい」と訴え、息子に無理なリハビリをさせようとします。これにブラック・ジャックは「(死ぬ確率の高い戦場へ行かせるなんて)なんのための治療なんだ」と怒ります。
しかし、実はこの母親は子供を戦場に行かせないために病気が悪化するようわざと無理なリハビリを強いていたことがわかり、ブラック・ジャックは、青年が戦地へ行かないですむように診断書を書いてあげました。が、最後は結局、青年は無理やり戦場へ駆り出され、命を落としてしまいます。
このほか『ブラック・ジャック』では「アナフィラキシー」というエピソードでも、戦地で追った傷を手術で直した青年が、目を覚ましたあとに「また戦場に戻るぐらいなら死んだ方がいい」と自殺してしまう話があります。
●『火の鳥』未来編
続いては『火の鳥』未来編で描かれたエピソードです。時は西暦3404年。人類は荒れ地となった地上から、世界5か所にある地下都市へと移り住んでいました。そんな人類の意志決定をしていたのは、各都市にある高性能コンピュータ。それぞれ「電子頭脳・ハレルヤ」や「聖母機械・ダニューバー」など立派な名前を持っていて「感情に振り回される人間よりも常に合理的な判断ができるコンピュータの方が頼りになる」という理由から、人類から絶大な支持を得ていました。
しかし、あることをキッカケにこのコンピュータ同士がケンカを始めます。互いが引かずにヒートアップした結果「どっちかが消えるべき」という、まさかの「戦争」宣言。もちろん止めようとする人間もいましたが、結局は流されるまま核戦争へと突入し、人類はほぼ滅亡してしまうのでした。
いろいろなタイプのエピソードを紹介しましたが、どの作品にも、一度大きく傾いてしまった流れは、多くの人が「間違いだ」とわかっていてもなかなか止めることができない……という恐ろしさが共通して描かれているように感じます。
(吉原あさお)




