なぜTVアニメの放送遅延が発生するのか かつては「延期」ではなく「作画崩壊」だった?
昔は「作画崩壊」だったが今は「放送の遅延」に
もちろん、人手不足の他にも制作の遅れにはさまざまな理由があります。10年ほど前に作画崩壊を起こしたある作品は、脚本が遅れに遅れたために1クール分のアニメをわずか3週間で制作しなければならなかったそうです。当時参加していたスタッフの方から最初に話を聞いた際には信じられませんでしたが、その後、他の方からも同じ話を聞いたので、事実だと考えて良いでしょう。
最近では『ゴールデンカムイ』第4期の放送中にメインスタッフのどなたかが突然亡くなったため、いったん制作が延期されるというショッキングな出来事もありました。アニメ制作が過酷な状況で行われていることがうかがえます。
他にも監督が極めて強いこだわりを見せたために制作が遅れた例や、原作サイドがリテイクを繰り返しスケジュールが破綻した例など現場のこだわりが原因となった事例も存在しています。
しかし作画崩壊を語る際に必ず出てくる『ロスト・ユニバース』の第4話「ヤシガニ屠る」の場合は事情が少し違いました。海外に発注した分が酷いできで、日本の現場が直して放送に耐えるレベルに仕上げていたのを、経営サイドが「現場が不必要なこだわりを見せている」と考えて直しを許さなかった結果、25年が経った今なお語り継がれてしまう問題作が世に出てしまった経緯があります。
また、プロデューサーが独断で放送時期を早めたため、最初からどうにもならなかったという事例も聞きました。結局のところ、経営サイドと現場サイド、双方のハンドリングがどこかでおかしくなった時に、制作の遅延や崩壊が起こるのでしょう。
ただ今回、制作の遅延について調べた際に、以前は作画崩壊を起こした作品をそのまま放送していましたが、いまはいったん仕切り直し、新たに枠を確保するケースが増えている点に思い当たりました。この理由として大きいのは、一度作画崩壊を起こすと何かの折に話題が蒸し返されてしまうためだと思われます。
また、かつてはTVでの放送が中心でしたが、今は配信も視聴手段のメインと言える状況となっており、以前と比較すると制作の遅れに対応しやすくなっているというのもあるでしょう。そもそも崩壊した現場を無理に立て直そうとしても、近年のアニメは話数が少ないため立て直し切れずに最終回を迎えてしまう可能性が高く、それなら仕切り直した方が良い作品になるのは明白です。
可能であれば制作の遅延は起こって欲しくはありませんが、一番そう思っているのは間違いなく制作スタッフをはじめとする関係者です。幸いと言っていいのかは分かりませんが、現代は見るアニメに事欠く時代ではありません。他の作品を見ながら、のんびり完成を待つ。それがファンの取るべき態度なのかもしれません。
(早川清一朗)