『けいおん!』の絶妙な「平成み」 連絡手段が「LINEじゃない」事に感動?
10年以上前に一大ブームを巻き起こしたアニメ『けいおん!』は、美しい日常描写のなかに、もうすでに少し懐かしい「平成み」を感じさせる描写があります。具体的に見ていきましょう。
思えば唯たちが使っていたのはガラケーだった

2019年5月1日に始まった令和ですが、気づけばもう令和5年です。全く月日の流れの早さに、驚きを禁じ得ません。実際、一斉を風靡したアニメ『けいおん!』(原作:かきふらい)の放送開始が2009年で、もう15年弱経過しているのです。そんなバカな、と言わざるを得ません。。
しかし、残念ながら、これはまぎれもない事実です。かわいらしい女の子たちのやりとりはもちろんのこと、ノスタルジックな木造校舎の細やかな描写が印象的な『けいおん!』でしたが、改めてよくみれば絶妙に「平成み」を感じさせる描写が、ところどころしっかり残されているのです。京都アニメーションならではの描写力で、きっちりと切り取られた『けいおん!』の、実にさりげない「平成らしさ」を改めて振り返ります。
大大前提として、主人公たちがスマホでなく「ガラケー」を使用している点は、なるほど時の流れを直視せざるを得ません。放送開始の2009年4月時点でiPhone は発売されていましたが、スマホの世帯普及率がガラケーを抜くのは2016年頃のことでした。
第1話の開始1分で、主人公・平沢唯がベッド脇においたガラケーで、時間を確認する描写から始まるのは象徴的です。また、唯が追試勉強中に放課後ティータイムのメンバーから、激励のメッセージが届くのですが、当然ながらこれも「LINE」ではなく「メール」でした。「件名」が「(non title)」と表示されている点も、懐かしさを感じます。
またそれに付随する描写として(演出の要請もあるかもしれませんが)、彼女たちはネットに繋がった環境にいながら、「検索する」はあまりしません。バイトを探すにしても、求人情報誌をみんなで広げ、ギターのコードもまずは教則本です。今ならバイトはアプリで探すでしょうし、ギターの練習もまずは動画配信サイトを検索するのでしょうか。
なお初代オープニング曲「Cagayake!GIRLS」には、「プリ帳」なんて単語も出てきました。言わずもがな「プリントシール手帳」の略ですが、すでにしてちょっと懐かしい響きです。
ではこの出てくる小道具が古くなっていくことが、アニメ『けいおん!』の評価を損なうかと言えば、むしろ逆と考えます。『けいおん!』の大きな魅力は、「一度しかない青春」に対する尊さの描き方でもあり、必然的に「懐かしさ」を帯びていくものです。つまり「平成み」をしっかり描いてくれているからこそ、今後ますます『けいおん!』の作品評価や、リアルタイム世代が見返した時の懐かしさ、エモさは高まっていくのではないでしょうか。
(片野)