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ジブリ『ゲド戦記』本編を酷評した原作者が唯一“褒めた”部分とは?

大ヒットを記録した『ゲド戦記』ですが、内容には賛否両論がありました。とりわけ原作者は厳しい評価を下していますが、とある部分のみ絶賛していました。

厳しい評価を下した原作者が褒めた部分とは?

画像は『ゲド戦記』静止画より (C)2006 Ursula K. Le Guin/Keiko Niwa/Studio Ghibli, NDHDMT
画像は『ゲド戦記』静止画より (C)2006 Ursula K. Le Guin/Keiko Niwa/Studio Ghibli, NDHDMT

 興行収入78.4億円の大ヒットを記録した宮崎吾朗監督の『ゲド戦記』ですが、オリジナル要素が多く加えられたストーリーには賛否両論が寄せられました。

 原作者のアーシュラ・K・ル=グウィン氏も苦言を呈したひとりです。完成直後、試写会に招かれたル=グウィン氏は宮崎吾朗監督に「これは私の本ではありません。あなたの映画です」と答えています。その後、公式ホームページに「原作の精神に反している」「支離滅裂」「本だけでなく読者にも無礼」と辛辣なコメントを残しています(現在は削除)。

 その一方、ル=グウィン氏が絶賛した部分がふたつだけありました。ひとつは、「ゲド(ハイタカ)」を演じた菅原文太さんの声です。「ゲドの温かくて暗い声は特に素晴らしかった」とコメントしています。

 もうひとつが、手嶌葵さんによる主題歌「テルーの唄」です。ル=グウィン氏は「テルーが歌う素敵な唄が、映画の吹き替え時に元の形で残されることを望みます」と記しています。アメリカ版の吹替が行われても、「テルーの唄」だけは元のまま使用してほしいと原作者自ら要望を出したのです。それぐらい気に入っていたということでしょう。

 手嶌さんが歌唱した「テルーの唄」は、透明感のある歌声、深遠な歌詞、静かで穏やかな雰囲気などが人気となり、CDの売り上げが30万枚を超える大ヒットとなりました。とても印象的な主題歌ですが、実は非常に短い日数で制作されたことが明らかになっています。

 もともとは鈴木敏夫プロデューサーに1本のデモテープが渡されたことから始まります。18歳だった手嶌さんがデモテープのなかで歌っていたのは、偶然にも鈴木プロデューサーが大好きなベット・ミドラーの「ローズ」という曲でした。手嶌さんの声に聴き惚れた鈴木プロデューサーは、萩原朔太郎さんの「こころ」という詩を思い浮かべたそうです。

 鈴木プロデューサーはすぐさま宮崎吾朗監督を呼んで、デモテープを聴かせた上で『ゲド戦記』のテーマソングの歌詞を依頼し、さらに「こころ」を暗誦しました。詩をヒントにした宮崎吾朗監督は、翌日には歌詞を完成させています。

 作曲はコンペでしたが、シンガーソングライターの谷山浩子さんが作曲したものが採用されました。手嶌さんが歌入れを行い、なんと歌詞が完成してからわずか10日後には、歌が入ったテープがジブリに届けられます。谷山さんも中学生の頃、萩原朔太郎さんの「こころ」が大好きだったそうです。

「テルーの唄」の発表後、歌詞と「こころ」の類似性を指摘されましたが、鈴木プロデューサーは隠蔽する意図がなかったことを公式サイトで謝罪し、「こころ」を参考にしたことを明らかにしています。

 人生のなかにある孤独や寂しさ、悲しさ、切なさを優しく歌う「テルーの唄」は、これからも多くの人を魅了していくでしょう。そして、萩原朔太郎さんの「こころ」を知り、親しむ人もまた増えていくと思われます。

(大山くまお)

【画像】え、見た目も麗しい! こちらが原作者から絶賛された日本の歌姫です(4枚)

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