『エヴァンゲリオン』登場が最大の見せ場? 現実では不遇すぎたロシア製艦上戦闘機
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』には、マニアックな現実の兵器や、それをモデルとした架空兵器が登場することでも知られます。なかには現実よりよほど高待遇に描かれたものも。そのひとつ、ロシア製戦闘機Su-33とその「母艦」を解説します。
みんな大好き「フランカー」の艦載タイプ

アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』において、実在の兵器が登場することは決して珍しくありません。現実の兵器やその改良型と思われる装備が多数、登場しています。
その中でも、特に興味深いのが第八話「アスカ、来日」における空母戦のシーンです。ここでは、アメリカ海軍のニミッツ級航空母艦の架空の艦である「オーバー・ザ・レインボー」が登場し、飛行甲板には戦闘機も描写されています。しかし、その機種は驚くべきことにロシア製のスホーイSu-33でした。
TVアニメは1995年から1996年に放送され、2015年を舞台にしていました。本来であれば戦闘機はアメリカ製艦上機であるF/A-18「ホーネット」などが適任であったでしょう。なぜSu-33が選ばれたのかは不明ですが、アメリカの空母にロシア機が搭載されている描写は、劇中の国際関係を示唆するとても興味深い設定であるといえるかもしれません。
Su-33は、ロシアのスホーイ社が開発した艦上戦闘機であり、Su-27「フランカー」をベースとして艦載運用向けに改修された機体です。主な特徴として、「スキージャンプ方式」と呼ばれる短距離での発艦が挙げられます。
Su-33を発艦させるには、航空母艦側に「スキージャンプ甲板」と呼ばれる傾斜のついた飛行甲板が必要となり、本来の搭載艦であるロシア海軍唯一の空母「アドミラル・クズネツォフ」には備えられています。
しかし「オーバー・ザ・レインボー」にスキージャンプ甲板は存在しないため、Su-33の発艦はできないか、可能であってもかなり燃料を減らす必要があるでしょう。そうなると、戦闘機としての能力を完全に発揮することはできないと考えられます。
実際の運用においては、前述のように空母「アドミラル・クズネツォフ」に配備されています。しかし度重なるトラブルに見舞われ、非常に不安定でした。
2016年にはシリア内戦への介入を目的に、「アドミラル・クズネツォフ」はシリア沖へ派遣されます。これはSu-33にとって最初で最後となる空母艦上からの実戦投入でしたが、同じく艦載されていたMiG-29Kとともに相次いで墜落するという惨憺たる結果となり、その後は艦載機なのに地上のフメイミム空軍基地から出撃するという結果に終わりました。
2017年から「アドミラル・クズネツォフ」はオーバーホール中であり、2025年現在に至るまで一度も出港しておらず、その復帰の目処は立っていません。2022年から始まったロシアによるウクライナ侵攻によって、海軍にまで手を回す余力がなくなり、二度と現役復帰しないのではないかという観測もあります。
この間、Su-33は艦載機でありながら地上配備されるという状況に置かれ続けており、「アドミラル・クズネツォフ」の復帰を待たずに退役してしまうのではないかとも見られます。
ロシアでは海軍の凋落を示すかのように明らかに不遇なSu-33ですが、『エヴァンゲリオン』の劇中においては、弐号機のプログレッシブナイフで真っ二つにされ、使徒には潰されるという、なかなかに美味しい(?)役回りが与えられたことは、せめてもの慰みであったといえるかもしれません。
(関賢太郎)