長年の謎・ウルトラマンの「声優」を担当したのは誰? 印象的な「棒読み」の正体は
ウルトラマンは、第1話と最終話に長いセリフを話します。その声を担当していた人が長らく謎でしたが、ついに判明しました。
記憶に残る平坦な声を担当していたのは誰? ついに判明!

「ハヤタ隊員 そのかわり 私の命を 君にあげよう……」
この言葉が、くぐもった声で再生されたら相当な『ウルトラマン』ファンです。
こちらは『ウルトラマン』の第1話「「ウルトラ作戦第一号」において、「ハヤタ隊員」が「ウルトラマン」の「赤い球体」に衝突し、ウルトラマンと邂逅する場面でのセリフでした。ぼやけた視界のなか、銀色の巨人がハヤタ隊員に向かい、自らを「M78星雲から来た宇宙人だ」と自己紹介する場面は、あまりにも有名です。
あの無機質、無感情な、行ってしまえば「棒読み」な声質はウルトラマンのミステリアスな雰囲気を、一層強めてくれました。
ただ、実はこのシーンには長らく、大きな「謎」が残されていました。その謎とは、誰がこのセリフを話したのか、という点です。クレジットを見れば良いじゃないか、と思われるかもしれませんが、第1話のオープニングのクレジットに、ウルトラマンの声の記載はありません。いったい、誰が担当していたのでしょうか。
ちなみに「シュワッチ」に代表される、ウルトラマンの「普段の声」を担当していたのは、俳優の中曽根雅夫さんという方です。中曽根さんのあの掛け声があってこその『ウルトラマン』であり、なかなか功績に対して評価が追いついていない現状ではあります。ただ、中曽根さんがウルトラマンの「セリフ」も担当したのかかといえば、これもまた違うのです。
2001年に発行された、映画監督の河崎実さんによる『ウルトラマンはなぜシュワッチと叫ぶのか』という書籍には、興味深い記述がありました。映画界随一の特撮オタクである河崎さんの調査によれば、この長セリフを担当していたのは、どうやらプロの声優ではなく、ダビングなどを行なっていた「キヌタ・ラボラトリー」の編集技師だったというのです。
ただ、その名前はこの本が書かれた時点では、判明していませんでした。いずれにせよ主役であるウルトラマンの声を、俳優や声優に任せず編集技師に任せた、ということになります。すさまじい英断(?)です。
そして、いまはその録編集技師の名前も判明しています。近藤久さんという方です。近藤久さんといえば、『ウルトラマン』オープニングで「編集」担当としてクレジットされている方です。一説によれば、ウルトラマンの掛け声担当の中曽根さんがアフレコの収録に遅刻し、急遽、抜擢されたと言われています。
いずれにせよこのプロではない方の声によって、ウルトラマンがかもす雰囲気に深みが出ました。そして、近藤さんは最終話「さらばウルトラマン」において、再登板することになります。かの有名な「ゾフィー」とのやりとりの声を担当したのも、近藤さんだったのです。
「私の命をハヤタにあげて 地球を去りたい……」
この平坦ながらも優しいウルトラマンの口調は、なるほどプロの演技では、実現しなかったかもしれません。2022年公開の『シン・ウルトラマン』(監督:樋口真嗣、脚本:庵野秀明)における、ウルトラマン(声:高橋一生)もまた、この近藤さんを彷彿とさせる語り口でした。時代を超越する演技を魅せた近藤さんは、紛れもなく私たちのヒーローなのです。
※参考書籍『ウルトラマンはなぜシュワッチと叫ぶのか』(著:河崎実)
(片野)