中の人・古谷敏さんは降板も考えた? あまりにも過酷すぎた「ウルトラマンのスーツ」
「着ぐるみ」としてのウルトラマンの着心地、気になりませんか? あれを着たら、どんな感触がするのでしょう。
ウルトラマンの着心地チェック! サイズはぴったりだけど?

我らの「ウルトラマン」は、永遠のヒーローであると同時に、スーツアクターがなかに入って動く「着ぐるみ」という側面もあります。素朴な疑問ながら、ウルトラマンの着心地はどのようなものなのでしょうか。ウルトラマンの「中の人」を務めた、俳優の古谷敏さんの近年のインタビューを参照しながら、実際の着心地を確認していきましょう。
まず私たちが知るあのウルトラマンのスーツは、誰でも入れるわけではなく、古谷さんのスタイルに合わせて細かく採寸された特注でした。いまでこそ「スーツアクター」という名称が一般化しましたが、古谷さんの時代は「ぬいぐるみ役者」などと呼ばれており、顔が知られてなんぼの俳優からすれば、決して喜ばしい仕事ではありません。
当然、古谷さんも最初は何度もそのオファーを断ったのですが、ウルトラマンのデザインを担当した芸術家の成田亨さんから、ウルトラマンは古谷さんがなかに入る前提でデザインしていると熱心に口説かれ、ようやく決心をしたのです。
ところが、古谷さんはいざ撮影に臨むと、早くも大後悔しました。とにかくウルトラマンのスーツの着心地は、「最悪」だったのです。古谷さんは当初、「月光仮面」のような布タイツと思っていたらしいのです。
ところがウルトラマンの着ぐるみは、ピタピタのゴム製ウエットスーツです。サイズは口と目の部分にわずかな隙間が空いている程度で、息苦しいったらなかったといいます。
重さにして2、3kgはあったというゴムの鎧をまとった身体は、一瞬で猛烈な熱さにやられ、大量に発汗します。その汗をゴムは吸収せず下へと流し、足部分に溜まっていくばかりです。
皮膚呼吸もできず、常に酸欠状態になります。特撮ヒーロー黎明期ということで、アクター目線のノウハウがありませんでした。現場の待遇も、当時は撮影の合間に休む椅子すらなかったといいます。
ただでさえ過酷な撮影が続くなか、夏になると、ウルトラマンのスーツは古谷さんをさらなる危険にさらしました。体感温度50度超のスーツのなかで、あっという間に意識は朦朧とします。3分ほど経過しては、両手でバツを作って、すぐさまスタッフにスーツを上半身だけ脱がせてもらい、撮影所を飛び出して頭から水をかぶる……その繰り返しでした。
当然、このような状態では撮影は続けられません。古谷さんは途中降板の意思を固めつつあったのですが、バスに乗った際に小学生が「ウルトラマン」の話を熱心にしていたことに胸を打たれ、最後まで続けようと改めて決心したのです。
ちなみに、ウルトラマンは当初しゃべる予定だったので、初期のマスク(いわゆるAタイプ)は、若干ながらフガフガっと歪んでいます。古谷さんからすれば、この時のマスクが表情を反映させることができたため、演技のしがいがあったそうです。いわれてみれば確かに、初期マスクの頃はその下にいる古谷さんの表情が感じられます。
正直、あのウルトラマンの「中」がこんなにも苦痛で過酷なものだとは、子供の頃は想像すらしていませんでした。それは古谷さんがそれを全く感じさせない演技で、現場で戦ってくれていたからです。
※参照:ウルトラマン55周年記念コインを発売した「泰星コイン」公式サイトでのインタビュー、集英社新書プラスの「ウルトラマン不滅の10大決戦」内での古谷敏さん×やくみつるさんの対談
(片野)
