あれ、胸元おかしくね? 監修・円谷英二がOKにした『ウルトラマン』の重要だけど「矛盾」してる場面
特撮ヒーローの原点『ウルトラマン』は、円谷英二さんの厳しいチェックがありました。しかし、その厳しいチェックの目を、なぜかすり抜けた有名シーンがあります。
本来だったら「NG」だったはず

1966年の『ウルトラマン』という作品は、毎週新たにミニチュアセットを作り、怪獣の着ぐるみを作り、そこにストーリーと演出を加えて撮影し、オンエアするという、常識では考えられないスケジュールで制作されていました。そして、何よりもそのスケジュールを逼迫させたのが、他でもない「特撮の神様」円谷英二さんの「監修」です。
オープニングで堂々と、「監修 円谷英二」とクレジットされていた通り、1シーンごとに非常に厳しい目で「監修」し、納得できなければ「撮り直し」を指示していました。たとえミニチュアの街が破壊された後であろうとも、納期が目前であろうとも、その信念は絶対的なものだったようです。『ウルトラマン』が第39話という半端な話数で終了となった原因のひとつに、この厳しすぎるチェック体制があった、という説もあります。
現場スタッフからすれば、「撮り直し」の指示は、阿鼻叫喚ものだったと思われますが、この厳しい監修があったからこそ、令和の現在も愛されるクオリティーに仕上がったことは間違いありません。
一方で、本来の円谷さんであれば絶対に「NG」にするような場面が、なぜかOKだったことがあります。それが、誰もが知る有名なシーンなのですから、驚きです。
「集英社新書プラス」で連載された企画「ウルトラマン不滅の10大決戦 完全解説」のなかで、ウルトラマンのスーツアクターだった古谷敏さんが、当時のことを詳しく語っています。
その「本来NGなシーン」とは、『ウルトラマン』の最終話「さらばウルトラマン」において、「ゼットン」に敗北した「ウルトラマン」が、助けにきた「ゾフィー」を前に、倒れているシーンでした。まさに『ウルトラマン』全編通じて最も劇的なシーンのひとつと言えるこの場面は、どこが「NG」だったというのでしょうか。
注目すべきは、倒れたウルトラマンの胸部から左腕にかけての箇所です。いつもであれば、筋肉が隆々と盛り上がっているはずが、このときは、大きく凹み、くしゃっと歪んでいます。この倒れているウルトラマンのスーツには、スタッフが大急ぎで詰め込んだウレタンが入っていました。時間もないなかでの作業だったので、大きな歪みが生じてしまったのです。
古谷さん曰く、円谷さんはこうした「いびつさ」を最も嫌っていたとのことで、いつもなら「NG」となるはずですが、なぜか撮り直すことはありませんでした。円谷さんは「最終回だから甘く採点」するような人ではなく、なぜこの歪みをそのままにしたのかは不明です。
古谷さんはこのウルトラマンの左腕の凹み、歪みが「OK」だった理由について、「ヒーローの最後の姿はそれぐらい痛々しいものなんだよ、と伝えたかったからじゃないですか」と語っています。実際、この直前のシーンまで、ウルトラマンはゼットンにひたすらに痛めつけられ、それはもうボロボロでした。この凹みこそ、偶然の産物とはいえ、円谷さんも納得のリアリティーだった、ということなのかもしれません。
ちなみに、ウルトラマンのスーツにウレタンが入っていたとき、古谷敏さんはどこにいたのでしょうか? もちろん、ゾフィーのなかです。
(片野)
