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宮崎駿監督の暴走アニメ『崖の上のポニョ』 若手監督たちの追随を許さぬ巨匠の「狂気」

引退宣言をたびたびしている宮崎駿監督ですが、10本目となる長編映画『崖の上のポニョ』は、アニメーションならではの楽しさに満ちています。地上の文明が水没化してしまうという破滅的な物語なのに、なぜか明るい生命力にあふれています。宮崎監督の圧倒的な才能の前では、理屈や理論はあまり意味をなさないようです。

支離滅裂な物語ながら、興収は155億円

中盤あたりから、予想もつかない映像が連続する『崖の上のポニョ』の場面 (C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT
中盤あたりから、予想もつかない映像が連続する『崖の上のポニョ』の場面 (C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

「芸術は爆発だ!」という名言を残したのは、芸術家・岡本太郎氏(1911年~1996年)です。「国民的アニメ作家」と呼ばれる宮崎駿監督が、その才能を大爆発させたのは劇場アニメ『崖の上のポニョ』(2008年)です。

 宮崎監督にとって、日本映画の興収記録を当時樹立した『千と千尋の神隠し』(2001年)以来となるオリジナル作品です。『ハウルの動く動く城』(2004年)完成後には「長編はこれが最後」と語っていた宮崎監督ですが、『崖の上のポニョ』(以下『ポニョ』)は手描きによるアニメーションの楽しさが、スクリーンいっぱいに広がるファンタジックな作品となっています。ストーリーは支離滅裂ながら、興収155億円という特大ヒットとなりました。

 2025年8月22日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)は、3年ぶり7度目の『ポニョ』の放映になります。人気と評価を極めた宮崎監督が『ポニョ』で見せたハチャメチャぶり、そして宮崎監督に刺激を与えたかもしれない「ポスト宮崎駿」世代による暴走アニメを振り返ります。

アンデルセン童話『人魚姫』とは似ても似つかぬ展開に

 物語をつくる際は「起・承・転・結」という型に従うのがセオリーですが、『ポニョ』はそんなセオリーには従っていません。「魚の子」ポニョが「人間の男の子」宗介と仲良くなったことで、世界の均衡が崩れ、地上の文明は水没してしまうという、破天荒にもほどがあるストーリーです。アンデルセン童話『人魚姫』がモチーフとなっていますが、ほとんど別ものです。

 なぜ地上の文明が破滅することになるのか、その理由は明かされません。宮崎監督の頭のなかには、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)の古代ローマの遺跡や『未来少年コナン』(NHK総合)の科学都市インダストリアなど、滅びゆく文明というイメージが強くあるようです。

 宮崎監督の頭のなかにあるイメージをそのままアニメーション化したような、ワイルドな魅力が『ポニョ』にはあふれています。宗介にもう一度会いたいと願うポニョは、父親であるフジモトに閉じ込められていた潜水艇を飛び出し、宗介のいる陸地へと向かいます。

 恋する乙女の一途な気持ちは、もう誰にも止めることはできません。ポニョの大暴走が、世界を混乱に陥れます。江戸時代、恋人に会いたいがために放火事件を起こした「八百屋お七」を思わせるものがあります。

 スタジオジブリでは『もののけ姫』(1997年)からデジタル技術を取り入れるようになっていましたが、『ポニョ』の津波が巻き起こるシーンは手描きアニメならではの迫力に満ちています。

 宗介の血をなめ、さらに「命の水」を浴びたポニョは、魚 → 半魚人 → 人間 へと進化を遂げていきます。宮崎監督は『ポニョ』を描くことで、逆にどんどん童心に戻っていったのではないでしょうか。そんな宮崎監督のほとばしるイメージを、きっちりと具現化してみせた近藤勝也作画監督らスタッフの熟練した仕事ぶりもさすがです。

【画像】「えっ、監督暴走しすぎ?」 これが歴史に残るアニメ作品たちです(6枚)

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長野辰次

フリーライター。映画、アニメ、小説、マンガなどのレビューや作家インタビューを中心に、「キネマ旬報」「映画秘宝」などに執筆。現在公開中の『八犬伝』(キノフィルムズ配給)の劇場パンフレットなどにもレビューを寄稿している。

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