宮崎駿監督の暴走アニメ『崖の上のポニョ』 若手監督たちの追随を許さぬ巨匠の「狂気」
先の読めない世界だけど、明るいエンディング

嵐の夜が明けた翌日は、さらにすごいことになっています。宗介たちが暮らす街は水没してしまい、水のなかでは「デボン紀」に生息していた古代魚たちがうようよと泳いでいます。
宗介の母親であるリサが勤める老人ホーム「ひまわりの家」の老女たちは、なぜか水のなかでも平気なようです。車椅子を使うこともなく、元気に走り回っています。あの世とこの世がボーダーレス状態になったかのような不思議な世界です。
そんなカオス化した、先の読めない世界で、宗介とポニョは、これからの未来を背負って生きていくことになるのです。細かい理屈は分かりませんが、ポニョの母親である海の女神「グランマンマーレ」の話によると、宗介のポニョに対する愛情が途絶えると、再びとんでもないことが起きそうです。5歳児にして宗介は、大変な重積を負うことになります。
ただし、宮崎監督は多幸感あふれる明るいエンディングを、宗介とポニョのために用意しています。アニメーションの語源「animate」には、生命を吹き込む、活気づけるという意味があることを思い出させるフィナーレです。
この時期のスタジオジブリでは、アニメーターたちの間でベビーブームが起きていたことが知られています。スタジオ近くに保育園も新設しています。保育園の初代園長を務めた宮崎監督は、これからの時代を担う子供たちのために希望を感じさせる作品を残したかったのでしょう。
『ポニョ』に先駆けた大暴走アニメも
スタジオジブリが牽引する形で、日本では実に多彩なオリジナル劇場アニメが公開されるようになりました。なかでもゼロ年代には、今敏監督の『千年女優』(2002年)や湯浅政明監督の長編デビュー作『マインド・ゲーム』(2004年)といった、主人公たちが全力疾走するオリジナル作品が次々と誕生しています。
それらの暴走アニメに先駆け、庵野秀明監督は『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997年)で、商業アニメの枠から飛び出すような大暴走劇をみせています。
自分よりも若い監督たちの暴走アニメを、宮崎監督はどこまで意識していたかは分かりません。しかし、「真打ち」宮崎監督が才能のリミッターを外せば、『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨神兵が大暴走するかのごとく、とんでもない作品が誕生することを、『ポニョ』は証明しているように思います。
2度目のアカデミー賞長編アニメ賞を受賞した『君たちはどう生きるか』(2023年)の暴走ぶりもすごかったわけですが、構想中とされる宮崎監督の最新作はいったいどこまで暴走するのでしょうか。巨匠、恐るべしです。
(長野辰次)




