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『空の大怪獣ラドン』、「午前十時の映画祭」で上映へ 精巧ミニチュアに「滅びの美学」も

「特撮美術のレジェンド」による精巧なミニチュアワーク

東京都現代美術館で3月19日から開催予定の、「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」
東京都現代美術館で3月19日から開催予定の、「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」

 物語前半はパニックホラーとして、炭鉱町を襲った恐怖をじわじわと描いていますが、怪鳥ラドンが登場する中盤以降は、音速で空を飛ぶラドンと同様にスピーディに展開していくことになります。

 阿蘇山から飛び立ったラドンは、長崎までひとっ飛びし、翼から生じる衝撃波によって1955年に完成したばかりの西海橋を一瞬にして崩壊させてしまいます。さらにラドンは九州最大の都市・福岡市を壊滅させるのでした。

 福岡市の中心街・天神にあるデパート「岩田屋」の屋上にラドンは舞い降ります。陸上自衛隊が一斉射撃しますが、ラドンが翼を広げる度に西鉄電車は吹き飛び、中洲の歓楽街まで大被害を被ります。西鉄ライオンズの活躍で大いに賑わっていた福岡市は、たちまち火の海と化していきます。

 ネオンから看板まで精巧に福岡市の街並みをミニチュア化したのは、のちに「特撮美術のレジェンド」となる井上泰幸氏でした。美術担当の渡辺明氏と当時はまだ美術助手だった井上氏は、福岡まで巻尺とカメラを持ってロケハンし、「岩田屋」や「西鉄福岡駅」など市内の主要な建物をリアルに再現しています。井上氏が福岡出身だったこともあり、地元の友人らの協力もあって、ミニチュアはより精巧なものになったようです。

 2022年3月19日(土)から、東京都現代美術館にて「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」が開催されます。井上氏の残したスケッチやデザイン画などの資料の展示に加え、『空の大怪獣 ラドン』の撮影セットが会場に再現されるそうです。昭和な雰囲気を漂わせる福岡市街のミニチュアは、「井上泰幸展」の大きな見どころになりそうです。

「もののあはれ」を感じさせるフィナーレ

 物語のフィナーレも印象に残ります。アジア一帯を震撼させたラドンは、帰巣本能から阿蘇山へと帰ります。古生物学者である柏木博士(平田昭彦)の発案で、阿蘇山の噴火を利用したラドン撃退作戦が実行に移されます。自衛隊のミサイル攻撃によって阿蘇山は噴火を早め、溶岩が吹き出す火口へとラドンは戻ろうとします。火口に落ちたラドンを救おうと、もう1匹のラドンもその後を追うのでした。

 2匹のラドンは兄弟だったのでしょうか。仲のよい夫婦のようにも思えます。自分たちの巣を守ろうとして焼け死ぬラドンたちの最期を、河村と彼に思いを寄せるキヨ(白川由美)は見届けることになります。愛し合う恋人たちは、どんな気持ちで燃え尽きるラドンたちを見つめていたのでしょうか。

 人間は「万物の霊長」を自認していますが、『空の大怪獣 ラドン』を観ると、人類は生態系の一角に過ぎないように思えてきます。また、人間だけでなく、異形の怪獣たちにも仲間を思う気持ちがあり、生まれ故郷を大切にしていることが伝わってきます。

 戦争で片足を失っていた井上氏ら美術スタッフが精魂込めて完成させたミニチュアの街は、1回の撮影ですべて破壊され、また無敵の強さを誇った大怪獣も、あっけない最期を迎えます。『空の大怪獣 ラドン』には、日本文化ならではの「もののあはれ」「滅びの美学」が感じられます。

(長野辰次)

※「午前十時の映画祭12」は、2022年4月1日(金)より全国の映画館で午前中の時間に上映予定。『空の大怪獣ラドン 4Kデジタルリマスター版』は12月の上映予定ですが、詳細は映画祭公式サイトなどをご確認下さい。

※「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」は、東京都現代美術館で3月19日(土)から6月19日(土)まで開催予定です。

【画像】阿蘇山生まれの人気怪獣「ラドン」登場作品(5枚)

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