スポーツマンガの全てが詰まった『ドカベン』31巻 後世に影響を与えた奇蹟のバイブル
明訓四天王のバックストーリーの回収が熱い! 殿馬の「別れ」とは?

そして、主人公・山田については「なぜ両親がいないのか?」の謎が明かされます。山田は10歳のとき、バスで家族旅行していた際に、対向車に突っ込まれる事故に遭い両親を失っていました。
この試合中、土佐丸の犬神は投手として山田を徹底的に翻弄します。山田が苦手意識を抱くなか、今度は山田が守るホームに目掛け、犬神が殺人スライディングをしかけてくるのです。山田の脳内で、突っ込んでくる犬神とかつて親を奪った自動車がオーバーラップしますが、彼は犬神をはねのけ過去のトラウマに打ち勝ちました。
また、満身創痍のエース里中は、監督に降板を促されます。しかし里中は「この試合が最後になっても悔いはありません」と懇願しました。これは『SLAM DUNK』で桜木花道が背中を痛めながらも、安西監督に出場を求めた場面を思い出させます。そして、里中の過去も明かされます。
中学時代にライバルに敗北した屈辱、プライドを捨てオーバースローからアンダースローに転向した経緯、誰にも相手にされないなかでの孤独な努力、そして最高の相棒・山田との出会いが語られました。
やっとつかんだエースの座、傷だらけでも続投する里中の姿は涙を誘うシーンです。しかし、従来ならこの展開ではライバル選手を打ち取りそうな局面ですが、水島先生は土佐丸・犬飼に痛恨のホームランを打たせ、明訓を絶体絶命のピンチに落としました。
●殿馬一人の回想…ピアノと試合の「別れ」
最後の四天王、殿馬。天才ピアニストでもある殿馬は、試合中に中学時代を振り返ります。一流が集う音楽会「日本音楽アカデミー賞」の候補者のひとりだった殿馬は練習中、課題曲のショパンの円舞曲「別れ」を息をのむほどの旋律で披露します。しかし、一か所だけ殿馬の小さな手では、鍵盤が届かない箇所があり失敗。代表を別の生徒に譲りました。
その後、指の股を切除し、指を長くする手術を受けた殿馬。アカデミー賞会場で「別れ」が演奏される同時刻に殿馬は、学校の音楽室でひとり同曲を奏でます。そして苦手だった場所も指が届き、見事に演奏してみせました。その後、殿馬は山田と出会い彼のスケールの大きさに惚れ、山田のいる鷹丘中に転校して野球に傾倒していくのです。
そして、殿馬は1点リードを許した12回裏、ランナー1塁で打席に立ちました。殿馬はバッターボックスの一番隅でバットを構えると、犬飼投手は小柄な殿馬には届かないであろう外角ストレートを投じます。しかし殿馬は長いバットを持っていて、届かないはずの外角球をライトスタンド目掛け高々と打ち上げました。
球を追うライトの選手……かろうじてキャッチしますが、体ごとラッキーゾーンに落下しサヨナラツーランとなりました。殿馬はあのときピアノと距離を置いた「円舞曲 別れ」に重ねるように、この打法を「秘打 円舞曲 別れ」と名付けます。
凶悪なライバルとの死闘、ズタズタのエース、翻弄される主砲、明かされるメインキャラたちの過去、そして別れ……。そんな、今のマンガにも通じる、そしてこれからも描かれるであろう、スポーツマンガの王道展開が凝縮された奇跡の1冊が水島先生の『ドカベン』31巻なのです。
(南城与右衛門)



