『トップガンM』なぜ戦闘機のマニュアルは投げ捨てられたのか? その興味深い事実
戦闘機のマニュアル、というと、いかにも機密情報のカタマリのように思えるかもしれません。ところが実際のところ、映画『トップガン マーヴェリック』でも描かれたように、「敵も内容を知っている」ものに過ぎませんでした。
実は機密でもなんでもなかった戦闘機の「マニュアル」

映画史に名を刻んだ戦闘機映画『トップガン』の続編として2022年に公開された『トップガン マーヴェリック』は、世界中の観客を熱狂させました。トム・クルーズさん演じる主人公「マーヴェリック」の華麗な操縦技術や人間味あふれるリーダーシップはもちろんのこと、F/A-18E/F「スーパーホーネット」の迫力ある空中戦シーンが作品の大きな見どころです。
しかし、その映画のなかで象徴的なシーンのひとつに、「マーヴェリックが戦技マニュアルを捨てる」というものがあります。一見ただの演出のように思えるこの行動、実はそこに現実世界の興味深い事実が隠されています。
映画内でマーヴェリックが投げ捨てたもの、それはF/A-18E/Fのフライトマニュアルと呼ばれるもので、F/A-18E/Fを安全に飛行させ、任務を遂行するための操作手順や技術情報が詳細に記載されたドキュメントです。
航空機のフライトマニュアルは、操縦士にとってバイブルのような存在といえます。航空機の起動手順から操縦法、緊急時の対処法まで、あらゆる操作方法が網羅されており、これがなければ航空機を効率的かつ安全に運用することは困難です。しかし、このマニュアルが作中で「不要」と見なされる理由が映画のセリフにも現れています。「敵は内容を知っている」という、マーヴェリックのひと言です。
驚くべきことに、このF/A-18E/Fのフライトマニュアルは機密扱いではありません。実際、インターネットで検索すれば、誰でもその内容にアクセスできるのです。ネット上で「F/A-18E manual pdf」や「Super Hornet NATOPS manual」と検索してみてください。航空機の運用に関する情報が記載された膨大なページ数のマニュアルが簡単に見つかることでしょう。
これは、航空機の設計や運用に関わる情報の一部が、機密指定から外されていることに起因します。もちろん、実戦で使用される兵器システムの詳細や機密性の高い戦術データなどは含まれていませんが、基本的な操作手順や飛行のための技術情報については、公開されている場合が少なくないのです。F/A-18E/Fと同様にF-15やF-16のマニュアルもダウンロードすることが可能です。
映画の中でマーヴェリックがマニュアルを「不要」と言い切ったのは、戦闘の場における本質的な要素「経験」「直感」「創意工夫」が必要であり、マニュアルのさらに上を実現しなくてはならないというメッセージが込められていると考えられます。
たとえマニュアルが一般公開され、敵がその内容を把握していたとしても、空中戦では予測不能な状況が頻発します。シミュレーションでは想定できないアクシデントや即興の戦術が求められる場面では、パイロット自身の判断力が何よりも重要です。マーヴェリックが「敵は知っている」と言い放ち、マニュアルを投げ捨てた行為は、彼が経験と勘を駆使して困難を乗り越えてきたベテランとしての哲学を象徴しているのではないでしょうか。
もし、この記事を読んでいるあなたがF/A-18E/Fの操縦に興味がある場合、ぜひフライトマニュアルをダウンロードしてみてください。ただし最新の安全情報が適用されていない古いバージョンである可能性があるため、実機の操縦にはくれぐれも使わないようにしましょう。
(関賢太郎)