「忘れた」「何これ」 生みの親が覚えてない『ウルトラマンA』奇抜すぎる超獣たち
『ウルトラマンA』に登場する「超獣」は、それまでの「ウルトラ怪獣」に比べて派手なデザインが特徴です。しかも、デザイナーがふたりとも覚えてない、という「不思議な現象」が起きています。
「なんでこんなものを描いたのか」 ヤプールのしわざとしか思えぬデザイン

昭和のウルトラシリーズの怪獣たちの雰囲気は、1972年『ウルトラマンA』の頃からがらりと変わります。
『ウルトラマン』における「バルタン星人」「ゴモラ」「ゼットン」などなど、成田亨さんが手がけたウルトラ怪獣は一見してシンプルで美しいデザインだったのに対し、『ウルトラマンA』で怪獣を超越した存在として登場した「超獣」たちのデザインは、過剰とも言える装飾が特徴でした。
今でこそ新たなウルトラシリーズに登場するなど再評価が進む超獣たちですが、成田亨さんのデザインに慣れ親しんだファンから「どうしてこうなった」と、戸惑いの声が上がることもしばしばありました。
それもそのはずで、なんと「生みの親」の方々もまた、別の意味で「どうしてこうなった」という状態だったようなのです。いったい、どういうことなのか、解説します。
超獣は主に井口昭彦さん、鈴木儀雄さんによってデザインされました。コンセプトとしては文字通り怪獣を超える敵であることは明確なのですが、具体的なデザインの方針などは特に提示されないまま、手探り状態で作らなければいけなかったのです。
その背景に、当時の過密極まる制作スケジュールがあります。たとえば、井口さんは怪獣のデザインとは別に、特撮美術(セットほか)を担当していました。今日的な感覚からすれば両者は別領域ですが、こと怪獣特撮という特殊な映像ジャンルにおいては、こういった兼任もさほど珍しいものではありませんでした。
また怪獣のデザインは「着ぐるみ」を前提としているので、とにかく時間との勝負です。毎週、新しい着ぐるみを制作するのですから、当然その職人からも急かされます。鈴木さんの証言によれば、台本を渡された夜にデザインし、翌日の午前中にはデザイン画を納品していました。
そうした多忙な日々を送っていると、不思議なことが起こります。自分でデザインしたはずの超獣の記憶が、いまいちはっきりしないのです。
この現象が井口さん、鈴木さん、両者ともに生じているのは興味深い限りです。たとえば、『A』第36話に登場した「サウンドギラー」という超獣がいます。
頭部のアンテナから騒音を吸収する力を持っているこの超獣は、顔に当たる部分に器官らしきものがあるだけで、「目」や「口」がぱっと見では判然としません。デザインを担当した井口さんが、改めてこのサウンドギラーを眺めると……「なんで目玉がないんだ?」とご自身でも困惑していました。
では鈴木さんはどうでしょうか。代表的なところでは、鈴木さんは人気の敵キャラ「エースキラー」のデザインを担当しています。見れば見るほど不思議な形状の頭部をしているこのデザインに関して、鈴木さんは次のように述べられています。
「エースキラーはわりと気に入ってますけど、今見ると自分でも思います。なんでこんなものを描いたのかって(笑)」
井口さん、鈴木さん、両者ともに「どうしてこうなった状態」の超獣がいたとは、デザイナーの深層心理が描かせたとしか思えない、ある意味では「ヤプール」の魔の手に掛かっていたとしか思えません。
こういった現象が起きるほどのスケジュールのなかで、数々の超獣を生み出した彼らがいたからこそ。ウルトラ怪獣のデザインの幅は大きく広がり、現在まで新しい怪獣たちが産声を上げることができているのでしょう。
参考書籍:『豪怪奔放―円谷怪獣デザイン大鑑1971‐1980』(ホビージャパン)
(片野)