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まるで『エリア88』? 従来なかった「敵機撃墜で報奨金」が現実化 変わる戦場の景色

敵機撃墜で報奨金を得る……マンガ『エリア88』で描かれたような報奨金制度は従来、現実にはないものでした。ところが昨今の世界的なミリタリー情勢のなかでは、これが一部で現実化しているようです。

「最初のF-16撃墜に2500万円」

F-16「ファイティング・ファルコン」戦闘機(画像:ロッキード・マーティン)
F-16「ファイティング・ファルコン」戦闘機(画像:ロッキード・マーティン)

 戦闘機を駆る傭兵たちが熾烈な空中戦を繰り広げ、敵機を撃墜するたびに報酬を得る。こうした独特の世界観を描いた作品として、マンガ『エリア88』(作:新谷かおる)は広く知られています。同作では主人公の「風間真」が、親友だと思っていた「神崎悟」の裏切りで異国の空軍基地「エリア88」に傭兵として送り込まれ、戦闘機パイロットとして3年の契約期間を生き抜くか、150万ドルの違約金を払うかのいずれかを迫られます。彼は日本にいる恋人の元へ生きて帰るため、苦渋の思いで戦闘機に乗るのでした。

 現実世界において、撃墜ごとに報酬が支払われる制度は存在するのでしょうか。結論からいえば、通常の軍隊においてこのような報酬システムは採用されていません。軍の戦闘機パイロットは公務員であり、その任務は法律に基づいた給与によって保証されているため、個別の撃墜に対して特別な報酬を受け取る仕組みは不要と考えられます。また、歴史的に見ても、エースパイロットには特別待遇が与えられることはありましたが、それが戦果に応じた直接的な報酬制度に発展することはほとんどありませんでした。

 しかし、近年の紛争においては、この「撃墜報奨金」に類する制度が現実に登場しているようです。民間軍事会社(PMC)においては、戦果に応じ特別ボーナスを支給する場合があり、さらに一部のPMCは戦闘機を保有していることから、戦闘機パイロットに対して戦果に応じた報酬が支払われた可能性も考えられます。

 さらに、特に注目すべきは、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻における事例です。2024年6月、ロシアの民間企業フォレス社のセルゲイ・シュモティエフ社長は、西側諸国から供与されたウクライナ空軍のF-16戦闘機の撃墜に対し報奨金を提供することを発表しました。その内容は、「最初のF-16を撃墜した者には1500万ルーブル(約2500万円)、その後の撃墜ごとに50万ルーブル(約85万円)を支払う」というものでした。この発表は戦闘機ファンらのあいだで大きな話題となり、「まるで『エリア88』の世界が現実になったかのようだ」との声も聞かれました。

 ウクライナ空軍は、西側諸国から供与されたF-16やミラージュ2000といった戦闘機を慎重に運用しており、ロシア軍の迎撃を受けにくい空域で作戦を遂行しています。そのため、現時点ではF-16の撃墜報告はなく(2025年3月25日現在)、実際にこの懸賞金が支払われるかどうかは不透明です。仮にF-16が撃墜されたとしても、その証拠の提出方法や認定の基準については明確にされていません。

 シュモティエフ氏は過去にも、ロシア軍による西側戦車の破壊に対する報奨金制度を実施したと主張しています。例えば、最初に破壊されたレオパルト2やエイブラムス戦車に対して500万ルーブル(約900万円)、その後の戦車撃破ごとに50万ルーブル(約85万円)が支払われ、20台以上の戦車破壊が報奨金支払いの対象となったといいます。

 総じて、『エリア88』に描かれたような「撃墜ごとの報酬システム」は通常の軍隊には存在しないものの、特定の戦争環境下においては例外的に導入されることがあるといえます。ロシアのフォレス社によるF-16撃墜および戦車破壊に対する報奨金制度は、その一例として歴史に刻まれることになるかもしれません。

(関賢太郎)

【画像6枚】『エリア88』主人公機の実機画像 軽めの機体が好みのようです

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