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マンガ『サイボーグ009』はどこ目指したのか? 「置いてけぼり」展開の先に壮大なビジョンが

『サイボーグ009』ラストバトルの敵は、まさかの「神」。石ノ森章太郎先生が生涯をかけて構想した未完の物語には、宇宙と人類の起源をめぐる壮大なビジョンが隠されていました。

「神々」との戦いからイメージの世界……そして中断へ

「天使編/神々との戦い編」を収録した、石ノ森章太郎歴史的傑作集『サイボーグ009』(小学館)
「天使編/神々との戦い編」を収録した、石ノ森章太郎歴史的傑作集『サイボーグ009』(小学館)

「ジョー! きみはどこへおちたい?」

 このマンガ史に残る名セリフは、『サイボーグ009』の「地下帝国ヨミ編」のクライマックスで登場します。宿敵・ブラックゴーストの総統を成層圏で撃破した009(ジョー)と、彼を救おうとした002(ジェット)が、ひとつの流れ星となって地上へと落ちていくのです。

 ふたりの生死は不明のまま、物語はいったん幕を閉じました。しかし続編を望む声に応え「天使編」がスタートします。今度の敵は軍産複合体ではありません。「神」です。

「天使編」で009たちは、人類の創造主を名乗る存在と出会います。「神」たちは、地球を「収穫」に来たと言い放ちますが、その理由は「人間の出来があまりに悪いから最初からやり直す」というものです。

 その力の前にサイボーグ戦士たちは全く歯が立たず、絶望の淵に立たされます。それでもなお抗うことを決意した彼らに、超能力ベビー001(イワン)が新たな力を授けようとするシーンで、「天使編」は中断されました。

 その後に始まったのが「神々との闘い編」ですが、物語の方向性はガラッと変わります。神や伝説、人間と文明についての哲学的なモノローグが延々と続き、ついには各キャラクターの精神世界が描かれ始めるのです。

 たとえば、004(ハインリヒ)は殺しを楽しむような内面をさらけ出し、003(フランソワーズ)はジョーとの子どもを望むという「心の旅」が展開されます。セリフは次第に減り、最終的には情景描写のみの静謐なシーンへ。物語は雪に覆われた農村の祭りの光景で幕を閉じました。その空に浮かぶのは、巨大なUFOの群れ。

 激しいバトルを期待していた読者にとっては、まさに「置いてけぼり」の超展開だったことでしょう。この実験的表現は、日本中に衝撃を与えた『新世紀エヴァンゲリオン』のTV版最終話を、四半世紀以上先取りしていたと言えるでしょう。

病床で描かれた構想とは?

石ノ森氏の構想メモや資料からコミカライズされた「サイボーグ009完結編 conclusion GOD’S WAR (1)」(小学館)
石ノ森氏の構想メモや資料からコミカライズされた「サイボーグ009完結編 conclusion GOD’S WAR (1)」(小学館)

 石ノ森先生は病床で『009』の構想をノートにまとめていました。そのメモや資料をもとに、元アシスタント陣が描き上げたのが『サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD’S WAR』(以下「完結編」)です。

「完結編」はイメージの奔流のような怒涛の展開です。日本が大地震に見舞われ「神」を名乗る怪物たちが殺戮の限りを尽くします。003は両目をえぐられ、腕を切断されるなど、ショッキングな描写も目立ちます。

 次々と仲間が倒れていく激闘のなかで、001は「宇宙スケール」の真実を明かしました。地球はもともと「光の宇宙」から「闇の宇宙」へと追放された流刑地であり、そこに生まれた人類は、光の子と闇の子がひとつの肉体に宿った存在だというのです。

 善と悪が人間に同居するのはそういう存在だから。これまでの敵は神の姿を借りた闇の精神体で、人類を殺戮して肉体から光の宇宙に解放しようとする「主神」の計画だったのです。

『サイボーグ009』は、サイボーグ戦士たちの苦悩や葛藤を通じて、善と悪を問い続けてきました。その物語が最後にたどり着こうとしていたのは、人類の本質と宇宙の成り立ちに迫る、壮大なテーマだったのです。

 石ノ森先生は享年60歳。あと数年の時間があれば──。そう思わずにはいられません。

(レトロ@長谷部 耕平)

【画像】えっ、可愛さが全開じゃないか! これが自然体のヒロイン「003」フランソワーズです(5枚)

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レトロ@長谷部 耕平

雑食ライター 
小説・映画・マンガ・アニメ・ゲームなど面白ければ何でも摂取。気がついたら趣味まで仕事にしていた系のライター。チャンネル登録者4万人超えのYouTuberとしての顔も併せ持つ。エンタメ系から超がつくほど真面目なビジネス領域まで幅広く対応する雑食系。

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