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日本と中国で真逆の「呂布」像 「武力100」最強武将が本国では「イケメンの裏切り者」?

日本では「最強の武人」として知られる呂布は、中国本土ではまったく異なる人物像として描かれてきました。京劇における呂布は、「恋に翻弄され主君を裏切る“美青年”」。文化の違いが生んだ、ふたつの呂布について紹介します。

「豪傑・呂布」を誕生させた『横山三国志』

圧倒的な武力を見せつける呂布が表紙に描かれる、『横山光輝三国志』8巻(希望コミックス、潮出版社)
圧倒的な武力を見せつける呂布が表紙に描かれる、『横山光輝三国志』8巻(希望コミックス、潮出版社)

『三国志』のなかでも圧倒的な存在感を放つ武将が「呂布」です。特に横山光輝『三国志』では物語序盤に登場し、関羽と張飛に加えて劉備まで同時に相手にできる最強の武人として描かれました。しかし中国本土の伝統文化では、そのイメージはまったく異なります。そこにあるのは、最強の武人ではなく恋に翻弄され、主君を裏切る悲劇の美青年の姿でした。

 日本人にとっての呂布像は、横山光輝『三国志』によって形づくられたといっても過言ではないでしょう。方天画戟(ほうてんがげき)と赤兎馬という強力な相棒とともに活躍し、最強レベルの武将たちに囲まれても傷一つ負わない雄姿はまさに「人中に呂布、馬中に赤兎」と称されるにふさわしいものです。

 しかしそんな無敵の武将も、美女に篭絡され、度重なる自らの裏切りによってついには捕らえられ身を亡ぼします。この超人的な武力と人間的な弱さのギャップが、一般的な呂布の魅力とされています。

 また『真・三國無双』や『三国志』シリーズなどのゲーム作品でも、呂布は圧倒的な戦闘力を誇る「豪傑の象徴」(武力100)として描かれています。日本において呂布と言えば豪傑をイメージする方がほとんどでしょう。

 ところが中国での呂布は、まったく別の人物として受け止められています。

京劇では「美青年キャラ」の設定

中国の京劇では、「呂布」は線の細いイケメンとして表現される。画像は北京京劇院による舞台を収録したDVD『呂布与貂蝉』(揚子江音像有限公司)
中国の京劇では、「呂布」は線の細いイケメンとして表現される。画像は北京京劇院による舞台を収録したDVD『呂布与貂蝉』(揚子江音像有限公司)

 中国の伝統芸能・京劇では、登場人物の性格や身分に応じて「行当(ハンタン)」と呼ばれる役柄が定められています。 その分類は大きく「生(ション)」「旦(ダン)」「浄(ジン)」「丑(チョウ)」の4種類です。

 そのなかでも 「浄」は豪傑や敵役――張飛や曹操など、力強く荒々しい人物が該当します。では呂布もそこに分類されるのかと思いきや、実は違います。呂布の行当は「生」のなかでも、若く美しい男性を演じる「小生(シャオション)」です。これは趙雲や馬超、周瑜と同じく「美青年」の枠なので、横山光輝先生の描く荒くれた呂布とは全くイメージが異なります。

 京劇の舞台では、呂布は董卓に仕えるも貂蝉の誘惑に心を動かされて主君を裏切るという、愛と裏切りの物語が描かれます。呂布は赤兎馬にまたがって方天画戟を振るう「無敵の武人」ではなく「恋に溺れた美男子」として描かれているのです。

豪傑イメージの「逆輸入」現象も?

 こうした中国の伝統的イメージに対し、近年は日本の作品から“豪傑としての呂布”が逆輸入されています。 コーエーの『三國無双』をはじめとする多くの映像作品を通じて、中国でも「最強の戦士」としての呂布像が浸透しつつあります。

  現代中国では伝統的な「裏切りの美青年」と「三国志最強の武人」という、ふたつの呂布像が並立しているのです。

 横山光輝先生がマンガ『三国志』を描いた時代は、まだ日中関係に壁があり十分に資料を研究することができませんでした。乏しい資料をもとに描かれた呂布が本国の伝統的イメージと全く違う解釈になったのは致し方ないことと思えます。

 恋と裏切りの美青年として、あるいは自らの人間的弱さによって滅んだ最強の武将としての呂布。そのどちらにも普遍的な人間のあり方が描かれているからこそ、『三国志』は数百年にわたって愛されているのでしょう。

(レトロ@長谷部 耕平)

【画像】「えっ、変わりすぎだろ」「分かってたけど(笑)」これが美少女化が進む武将「呂布」です(6枚)

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