マグミクス | manga * anime * game

「このマンガがすごい!」を席巻する「和山やま」作品。繰り返し味わえる“旨み”とは?

各界のマンガ好きによるランキング「このマンガがすごい!」に2年連続で複数作品が上位にランクインし、大きな注目を集めている和山やま氏。その独特な笑いと描写はなぜ多くの読者に受け入れられるのでしょうか。

マンガ好きの心をつかんだ、初単行本『夢中さ、きみに。』

2019年8月に書籍化され、和山やま氏が大きな注目を集めた『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA)
2019年8月に書籍化され、和山やま氏が大きな注目を集めた『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA)

 各界のマンガ好きによる投票で選出されるランキング「このマンガがすごい! 2021」(宝島社)が発表されましたが、<オンナ編>の1位と5位に同じ作家の作品が選ばれ、ランキングを席巻しています。その作家とは、和山やま氏。その軌跡と作品について、少女マンガに詳しい芸人の別冊なかむらりょうこさんが解説します。

* * *

 現在、少女マンガ界は、和山やま旋風が止まりません。2016年にデビューした和山先生がその存在を台頭させたのは、2019年のこと。「コミティア127」にて同人誌で頒布していた『夢中さ、きみに。』が、2019年8月にKADOKAWAから自身初の単行本として発売されました。発売直後から話題を呼び、どこもかしこも売り切れが続出しました。

 同作は、第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。「このマンガがすごい! 2020 」<オンナ編>の2位にも輝き、2021年1月7日から毎日放送にてドラマの放映も決定しました。

 そしてその勢いのまま、和山先生の初連載作品『女の園の星』が「このマンガがすごい! 2021 」<オンナ編>1位、また同人誌として「コミティア129」で頒布していた作品で、現在コミックビームにて不定期連載中の『カラオケ行こ!』が同5位にランクインしました。

 その年のマンガの注目度と売り上げに大きな影響を与える「このマンガがすごい!」に、同一作品が2年連続で上位に入ることはありますが、同じ作者の作品が2年連続で、しかも複数が同時入賞することはそうそうあるものではありません。マンガ好きたちの心をわしづかみにしている和山やま作品とは、いったいどういうものなのでしょうか。

衝撃の初単行本『夢中さ、きみに。』

 和山先生が描く男の子像はとにかく「追いたく」なる魅力があります。『夢中さ、きみに。』は、オムニバス形式で描かれており、中高一貫の男子校に通う「かわいい」林くんを中心とした4編と、中学生時代モテ過ぎたことがトラウマで平穏な日常を求め、逆・高校デビューをした高校2年生の二階堂くんを中心に描かれた4編で構成されています。

 第1話タイトル「かわいい人」は、林くんから「僕かわいい?」とことあるごとに絡まれる同じクラスの男子高校生の話。古屋兎丸先生との出会いから変わったというその端正な写実的タッチで描かれる男子高校生たちは、一見「かわいい」から離れたところにいるようで、最後にこのふたりのやりとりに誰もが「かわいい…」と落ちてしまいます。

「男子校 x 少女漫画」ということは、そこから繰り広げられるは、恋愛模様……といったことはなく、2話目以降ではまた違った角度の林くんの姿が描かれます。

 後半の二階堂くんシリーズを含め、男子高校生たちの些細な日常を大袈裟な描写にするのではなく、小さく深く描写していく力で笑いを誘発していきます。

 ああこれが、「エモさ」か……を体得でき、登場人物たちのその後の人生を考えてやまない作品です。

【画像】和山やま『夢中さ、きみに。』独特すぎる描写とやり取りのギャップ(5枚)

画像ギャラリー

1 2 3