『シティーハンター』が抱えるジレンマ リョウと香の変わらない関係は幸せか?
香のドッキリ発言が飛び出す『百万ドルの報酬』

「新宿の種馬」こと冴羽リョウが、LAから来た殺し屋と対決することになるのが『百万ドルの報酬』です。いつものようにお金に困っていたリョウと香のもとに、100万ドルという高額報酬の仕事が舞い込みます。依頼人は金髪美女のエミリー。マフィアに狙われているので、1か月間ボディガードしてほしいという依頼内容です。
美女からの高額報酬なのに、リョウは簡単には引き受けようとはしません。なんと、報酬プラス「モッコリ一発」をエミリーに要求するリョウでした。
ここで注目したいのは、香の言動です。いつもなら「100tハンマー」が振り下ろされる場面ですが、「モッコリは私が払う」とリョウに告げるではありませんか。ちなみにエミリーは「モッコリ」の意味が分からず、チンプンカンプンの様子です。
香にしてみれば、思いきった発言です。リョウの女好きに頭を悩ませながらも、香はリョウのことを慕っています。しかし、リョウは亡き親友の妹である香のことを大切にしていても、ひとりの女性としては扱おうとはしません。
香の「モッコリは私が払う」発言に対し、リョウはかなりおかしなリアクションを見せています。香のいきなりの過激発言に、リョウは戸惑ってしまったようです。
コミカルなやりとりに感じるせつなさ
1985年から1991年という、黄金期の「週刊少年ジャンプ」で連載された原作マンガ『シティーハンター』ですが、リョウと香の関係ははっきりしないまま最終回を迎えました。TVアニメシリーズでも、劇場アニメ版でも、ふたりの関係性は変わっていません。一緒に暮らしているものの、あくまでも仕事上のパートナーという関係です。
リョウが美女にちょっかいを出すと、香の「100tハンマー」が繰り出されます。お約束の展開です。お互いに欠かせない、大切な存在であることは理解しあっているのに、ふたりともそれ以上は距離を縮めることはできません。
リョウと香とのコミカルなやりとりをファンはいつも楽しんでいますが、同時にせつないものも感じずにはいられません。『シティーハンター』の連載終了から10年後、北条氏が『シティーハンター』のパラレルワールド作品として描いた『エンジェル・ハート』では、香はついにリョウからプロポーズされます。しかし、幸せな結婚生活を迎えるはずだった香は、少女をかばって交通事故に巻き込まれてしまうことを多くのファンは知っているからです。
フィクション上のキャラクターであるリョウと香は、『シティーハンター』の世界では基本的に関係性は変わることがありません。美女をこりずに口説くリョウに対し、香は「100tハンマー」を見舞います。まるで永遠に続く「どつき漫才」を見ているかのようです。
お互いに想いを寄せ合うふたりにとって、関係性がずっと変わらないという状況は、幸せなことなのでしょうか? それとも、つらいことでしょうか? リョウと香との変わらない関係性は、『シティーハンター』における最大のジレンマとなっています。
(長野辰次)