『北斗の拳』サウザーが問いかける「強さ」とは? 愛深きゆえに愛を捨てた漢の結末
随一のヒールがカリスマとなったワケ

聖帝十字陵の頂上でシュウの死を目の当たりにしたケンシロウは、拳王とトキが見守る中、サウザーへ戦いを挑みます。余裕たっぷりに十字陵を上るサウザーは、ここでシュウを慕う子どもの不意打ちを受け、ナイフを足に突き立てられてしまいました。次の瞬間にも子どもは殺される……誰もがそう思ったはずですが、サウザーは冷静にナイフを引き抜くと、「シュウへの思いがこんなガキさえ狂わす!!」「愛ゆえに人は苦しまなければならぬ!!」「愛ゆえに人は苦しまなければならぬ!!」と叫んだのです。それはサウザー自身が愛ゆえに苦しみ抜いた経験を持つことを示した、告白でもありました。
故に、サウザーは愛を捨てたというわけですが、しかし人はそうそう親愛の情を捨てられるものなのでしょうか。言い換えれば「人はそこまで非情になれるのか」、となります。
サウザーは幼いころに南斗鳳凰拳の先代伝承者 オウガイに拾われ、厳しい修行の中でも愛情を注がれながら成長を遂げていきました。しかし伝承者に与えられる試練の際に、オウガイをその手で殺害してしまい、あまりの悲しみと苦しみから、愛を捨てた過去を持っていたのでした。
ここまでのサウザーの、非道非情な所業だけを見れば、一般常識に比してとても共感できるキャラクターとはいえないでしょう。しかしそこへ、大多数が共感できるであろう「親子の親愛の深さ」を背景に持ち込むことで、その心情を実にわかりやすいものへと転化し、そして読者の、共感とまではいえないまでも理解を得ることには成功している、といえるのではないでしょうか。愛憎は紙一重、と昔の人は言ったもので、そしてそれはある意味、人間のことわりでもあるからです。

熾烈を極めた戦いの中、ケンシロウはついにサウザーの体の秘密を解き明かします。サウザーは心臓が右にあり、秘孔の位置も表裏逆だったのです。謎が解き明かされた以上、あとは拳の力で雌雄を決するのみ。互いに奥義を尽くした死闘の末、脚を封じられたサウザーは「退かぬ!! 媚びぬ 顧みぬ!! 帝王に逃走は無いのだーー!!」と叫び、最後の一撃を繰り出します。
死力を尽くすサウザーに対しケンシロウが放ったのは「北斗有情猛翔破」、痛みを感じることなく息絶える慈悲の拳でした。シンやレイ、シュウたちの死を飲み込んできたケンシロウは、敵であるサウザーの心すらも救おうとするほどの人間的成長を遂げていた、といえるでしょう。一方で、サウザーはこの有情の拳で倒されるべきである別の理由もあるのではないでしょうか。
というのも、サウザーはこれまで述べてきたように「絶対悪」であり、絶対悪は必ず敗北しなくてはならず、そして最大の敗北とは人生の全否定であろうからです。情を否定したサウザーが、ケンシロウの有情拳で倒され、そして有情拳による敗北を受け入れるというのは、非情に徹した自身の生き方を自ら全否定することにほかならないでしょう。
敗北を認めたサウザーは、十字陵に収められたオウガイの遺体にぬくもりを求め、最期を迎えました。愛と情を取り戻したので、その墓たる聖帝十字陵も崩壊します。こうしてサウザーの物語は幕となりました。

このエピソードを通してサウザーは、「愛を捨てること=非情であることの限界」や、「人は愛を捨てきれないこと」を示したといえるでしょう。一方、ケンシロウは戦闘のさなかに「おれは愛のために闘おう!!」と述べ、そして勝利しました。そこに示唆されているのは、やはり「愛は強い」ということではないでしょうか。
では、愛を捨てない(=背負う)ことで、人は本当に強くなれるのでしょうか。それはのちのフドウのエピソードで示唆され、そしてラオウとの決戦まで深く追求されていくことになります。
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2023年11月20日(月)、『北斗の拳』40周年を記念しコアミックスより刊行が開始されたコミックス『新装版』の、第7巻と第8巻が発売されました。毎月20日に2冊ずつ発売される予定で、各巻の収録話は10年前に刊行された「究極版」と同じです。
またコアミックスのマンガ配信サイト「WEBゼノン編集部」の『金曜ドラマ 北斗の拳』にて、その刊行にあわせ、ケンシロウvsサウザー戦のハイライトである第95話「愛の墓標!の巻」と第96話「天砕く拳!の巻」を、2023年11月20日(月)0時から同年12月3日(日)23時59分までの期間、無料で公開しています。
■WEBゼノン編集部『金曜ドラマ 北斗の拳』
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(早川清一朗)


