ばけばけ「初めて自分で襖開けた」タエ（北川景子）は今何歳？　ガチの「お姫様」だったモデル人物に訪れた悲劇とは

「名家出身」ってどれくらい？

　2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、1890年に来日し『怪談』『知られぬ日本の面影』などの名作文学を残した小泉八雲さん（パトリック・ラフカディオ・ハーン）と、彼を支え数々の怪談を語った妻の小泉セツさんの生涯をモデルにした物語です。

　本作の第3週では、主人公「松野トキ（演：高石あかり）」の実の父「雨清水傳（演：堤真一）」が経営する機織りの会社の経営が傾き、金策に走っていた傳が病気で倒れるという悲劇が起きました。雨清水家は困窮し、女中たちに暇を出す事態となっています。

　そんななか、公式サイトで「松江でも随一の名家に生まれ、大勢の女中たちに囲まれながら何不自由なく育った」と説明されている傳の妻「タエ（演：北川景子）」が、傳を看病をしようとしてもお粥を炊くこともできないどころか、いままで襖を自分で開けたこともなかったという事実が明らかになりました。

　13話ではトキの養祖父「勘右衛門（演：小日向文世）」が、タエのことを「本当のお姫様」だと語っています。「松江でも随一の名家」出身ならそういわれるのも納得ですが、「モデル」の人物はどうだったのでしょうか。

※ここから先の記事では『ばけばけ』の今後のネタバレにつながる情報に触れています。

　トキのモデルである小泉セツさんの実母・小泉チエさんは、1837年3月に松江藩の家老、塩見家の娘として生まれました。実家の屋敷は、2100坪ほどもあったそうです。

　チエさんはとても大事に育てられたとのことで、芸事の稽古をするにも京都や大阪から師匠が来るような、まさに「お姫様育ち」をしたといいます。また、彼女は松江藩内で噂になるほどの、「稀に見る器量の持ち主」だったそうです。

　そんなチエさんは12歳のときに一度、上級武士の家に嫁ぐも、婚礼の儀を済ませた日の夜に新郎が侍女と心中するという悲劇に見舞われました。まだ少女だったチエさんは、一切取り乱すことなく事態に対処し、周囲から称賛されたそうです。

　その後の1851年、チエさんは14歳のときに1歳年上の小泉俊秀さん（明治維新後に小泉湊に改名）と結婚します。生後7日で親戚の稲垣家に養子に出したセツさん（1868年2月生まれ）を産んだとき、チエさんは満30歳でした。『ばけばけ』3週目で描かれているのは1886年時点の物語で、史実と同じ設定なら、タエは49歳で初めて自分で襖を開けたことになります。

　そんなタエには、雨清水家の没落後どうやって生きていくのか、視聴者から心配の声があいついでいました。

　モデルのチエさんは、夫の湊さんが1887年に病死した後、生活のすべがなく、家財を売り払って最終的には物乞いをするようになったそうです。セツさんを預けた稲垣家も借金に苦しみ、実家の塩見家やその他の親戚も軒並み零落しており、彼女は誰も頼ることができない状況だったといいます。

　ただ、チエさんは晩年は平穏な暮らしを手に入れたそうです。セツさんが1891年2月から松江の尋常中学校の英語教師をしていたラフカディオ・ハーンさんのもとで女中として働き、同年8月に夫婦になったため、チエさんには毎月仕送りが届くようになりました。

　1896年には、チエさんからセツさんに感謝の手紙が送られた記録が残っています。その後、彼女は大阪に移り住み、1912年1月に74歳で亡くなりました。

『ばけばけ』のタエは、今後どうなってしまうのでしょうか。史実通りなら、どこかのタイミングで北川景子さんが路上で物乞いをしているという、衝撃的な場面が描かれることになります。

※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」

参考書籍：『八雲の妻　小泉セツの生涯』（著：長谷川洋二／潮出版社）、『セツと八雲』（著：小泉凡／朝日新聞出版）、『小泉セツ　八雲と「怪談」を作り上げたばけばけの物語』（三才ブックス）

※本文の一部を修正しました。（10月15日13時11分）