『シン・ウルトラマン』が思い出させた、『幼年期の終わり』と『サイボーグ009』
『ウルトラマン』と同時代の人気作『サイボーグ009』

「禍威獣(かいじゅう)」ネロンガやガボラ、「外星人」ザラブやメフィラスとの激闘を終え、ウルトラマンと「禍特対」は絶対に勝てない強大な敵と対峙することになります。このクライマックスを観ていて、もうひとつ別のSF作品が頭によぎりました。マンガ界の巨星・石ノ森章太郎氏のライフワークとなった『サイボーグ009』の「天使編」です。
石ノ森氏にとって、『仮面ライダー』と並ぶ代表作となっている『サイボーグ009』は、1964年に少年マンガ誌での連載が始まりました。『ウルトラマン』が放映された1966年~67年は、『サイボーグ009』が物語的に最高潮に達した「地底帝国ヨミ編」が連載されていた時期と重なります。TVでもマンガ誌でも、少年たちを夢中にさせるSF作品を毎週のように楽しむことができた、夢のような時代でもあったわけです。
集団ヒーローものの先駆作となった『サイボーグ009』は、宿敵・ブラックゴーストの首領を倒した009ことジョーと、002ことジェットが流れ星となって夜空に消えるシーンで幕を下ろすことになります。マンガ史上に残る、哀しくも美しいエンディングとして知られています。
未完のままに終わった「天使編」
あまりにも読者の反響が大きかったため、『サイボーグ009』は掲載誌を変えて、2か月後に連載が再開されます。サイボーグ戦士たちの最後の敵として現れたのは、造物主である神=天使でした。人間離れした能力を持つ009たちでも、天使には歯が立ちません。
天使たちは「デキガワルイ」人類を一度滅ぼし、最初からやり直すつもりだと009に告げるのでした。このままでは人類は滅びるのを待つだけです。絶対に勝ち目のない相手とどう闘うのか。壮大なスケールの物語になることを予感させた「天使編」でしたが、未完のまま連載は終わっています。
未完の大作「天使編」ですが、多くの人に啓示を与えています。人類が天使と闘うという壮大な物語性は、石ノ森氏のアシスタントを務めた経験を持つ永井豪氏の『デビルマン』に引き継がれることになります。石ノ森氏は1998年に亡くなりましたが、残された構想ノートをもとに息子の小野寺丈氏、元アシスタントの早瀬マサト氏、シュガー佐藤氏らが完成させた『サイボーグ009完結編 conclusion GOD’S WAR』全5巻も刊行されています。
石ノ森氏自身が描いた『サイボーグ009』の最終回を読むことは叶いませんでしたが、9人の戦士たちが勝てない相手に対してどんな闘いを挑むのかは、『サイボーグ009』を読んでいた読者たちそれぞれの人生に託されたように思うのです。
神々の圧倒的な力の前に絶望する仲間に対し、009は「人間は生きたいのだ」と神々に知らせることが重要だと説きます。出来はよくないかもしれないが、人間は懸命に生きようとしていることを神々に分からせるために、009は捨て身で闘うことを決意します。そして超能力を持つ001が、009たちに「“新しい力”をつけてあげる」と語るところで、『サイボーグ009』の「天使編」は終わっています。
2023年3月に監督作『シン・仮面ライダー』が公開される庵野氏と5歳年下の樋口監督も、「天使編」の続きが気になった世代です。今回の『シン・ウルトラマン』はオリジナル版の『ウルトラマン』をリメイクしただけでなく、SFファンが子供の頃に果たせなかった想いも補完したような作品になっているのではないでしょうか。「天使編」は読者の心のなかで、今も息づいている未完の物語だと言えそうです。
(長野辰次)