東宝特撮映画のヒロイン・水野久美 妖艶なほほえみは子供にトラウマも残す
キノコの森で、妖艶にほほえむ『マタンゴ』

水野久美さんが大のお気に入り映画として挙げているのが、『怪獣大戦争』と同じく本多猪四郎監督が撮った『マタンゴ』(1963年)です。ゴジラは出てきませんが、とても濃厚な人間ドラマが繰り広げられるSFホラーサスペンスです。
クラブ歌手の「麻美(演:水野久美)」は、青年実業家の「笠井(演:土屋嘉男)」に誘われ、大学の助教授の「村井(演:久保明)」らと豪華ヨットに乗ってのクルージングを楽しみます。ところが若い男女を乗せたヨットは嵐に巻き込まれ、南洋の無人島に漂着してしまいます。
島には食べ物がなく、「マタンゴ」と呼ばれる奇妙なキノコが群生しているだけでした。飢えと島から脱出できない絶望感から、ヨットの乗員たちはエゴ丸出しで仲間割れを起こします。そして空腹に我慢できず、ひとり、またひとりと禁断のキノコ「マタンゴ」を口にするのでした。
マタンゴを食べた人間は不気味なキノコ人間になってしまうのですが、なぜか麻美だけは美しい顔のままです。ピンク色のキノコを食べた麻美が「おいしいわ~」とささやくシーンは、名場面として語り継がれています。
このときの水野さんは26歳でした。水野さんが妖艶にほほえむ表情は、人気イラストレーターのみうらじゅん氏をはじめ、幼少期に観てトラウマ的な記憶になっている人が少なくないようです。大島で1か月間のロケ撮影が行なわれた『マタンゴ』では、メイクは水野さんが自らやっていたとのこと。水野さん自身による、妖しいメイクもチェックポイントです。
日本初の女性総理になった『ゴジラ×メカゴジラ』
男をたぶらかす「妖婦」役で印象に残る水野久美さんですが、本多監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣』(1965年)とその続編的作品『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』では、母性あふれる心優しい科学者を演じています。一転して、福田純監督の『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966年)では、インファント島生まれの「ダヨ」をワイルドに演じています。作品によってがらっと変わる役を演じているのも、水野さんの魅力です。
特撮作品のことを下に見る人たちが多いなか、水野さんは特撮ならではのユニークな設定を面白がり、どんな役にも懸命に取り組んだことから、スタッフや共演者たちから愛されたようです。「ゴジラ」シリーズへの36年ぶりの出演となった『ゴジラ×メカゴジラ』(2002年)では、戦後日本の復興と怪獣との歴史を語る内閣総理大臣に、『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)では再びX星人を演じています。
水野さんの活躍は、まだまだ続きます。2024年には、ゆうきまさみ氏原作の連続ドラマ『白暮のクロニクル』(WOWOW)で謎の老女として出演しています。水野さんは、年齢に応じた役を演じることをモットーにしています。新潟の高校生時代に雑誌「ジュニアそれいゆ」でモデルデビューした水野さんは、いろんなアルバイトをしながら俳優座養成所に通い、多くの映画やTVドラマに出演してきました。悪役から善良な役まで、さまざまな役を演じてきた水野さんは、誰よりも人生を謳歌している女優のひとりではないでしょうか。
(長野辰次)


