えっ『バンゲリングベイ』ってRTSだったの? それが『シムシティ』につながるワケ
斬新すぎて理解されにくかったおなじみ『バンゲリング ベイ』、これをベースに『シムシティ』が爆誕したというのは、あまり知られていないかもしれません。改めてふたつのタイトルを見比べると、共通するものが見えてきます。
『バンゲリング ベイ』はRTSの先駆け…?

ファミコン初期を飾った『バンゲリング ベイ』の原作ゲーム(海外パソコン用)を作ったウィル・ライト氏は、後に都市経営シミュレーション『シムシティ』を生み出したことで知られています。かたや人により大きく評価が分かれる問題作、かたや世界中が認める傑作であり、大きなギャップを感じることでしょう。
しかし、実は『バンゲリング ベイ』なくして『シムシティ』なしといえる、切っても切れない縁で結ばれているのです。
そもそもファミコン版『バンゲリング ベイ』は、なぜクソゲーと言われがちなのでしょうか。それは当時、雑誌などでシューティングゲームと宣伝され、単純さが強調されたものの、実際には「子供には理解しがたいシステム」を持っていたからです。
本作は自機のヘリコプターを操り、空母で補給を受けながら、工場を爆撃するゲームです。それはマニュアルにも書かれていますが、ゲーム中での説明はありません。「合計100画面」の広大な世界をヘリで巡っているだけでは、ほとんど何も起こらないのです。
ときどき襲ってくる戦闘機も、動きが素早くて攻撃が非常に当てにくいものでした。主な目標が「工場を爆撃で破壊する」だけで、ともすると退屈な展開に見えやすかったのでしょう。
が、工場は放っておくと戦車や高射砲をどんどん配備していく上に、ステージが進むにつれ耐久力も増すなど「成長」していきます。そして拠点の空母は敵攻撃機に襲われると撃沈されるため守る必要があり、敵味方ともに「拠点を叩くこと」が大きなウェイトを占めています。今でいう「リアルタイム・ストラテジー」(RTS)の先駆けであり、子供に理解できるわけがない!
このような複雑なシステムを考案したウィル・ライト氏は、まぎれもなく天才でした。そして『シムシティ』も、『バンゲリング ベイ』の核となるアイディアをそっくり受け継いでいます。
ひとつには、時間の経過とともに「成長」する建築物です。道路や線路に面し、電力が通っていると自動的に発展していく都市は、まさに武装を強化して耐久度を上げる工場の延長上にあります。
第2に、「プレイヤーの行動が、世界に影響を与える」戦略性です。『バンゲリング ベイ』で工場の破壊が敵の増強を食い止めたように、市長の政策が人口の増減に結びつくという具合です。
さらにいえば『シムシティ』は『バンゲリング ベイ』のマップエディタがきっかけで生まれました。ウィル・ライト氏は敵基地を配置したり、島々の地形を作ったりするうち、世界を作る楽しさに目覚め、やがてアクション性のないシミュレーションに踏み切ったのです。
もっとも『シムシティ』は「勝ち」や「負け」の概念がない、当時としては新しすぎるゲームであり、大手ゲーム会社が理解してカネを補助してくれるものではありませんでした。そのため、ウィル・ライト氏は自らゲーム制作スタジオ「マクシス」を設立し、ようやく発売に漕ぎ付けます。
『バンゲリング ベイ』は子供たちの誤解(?)のおかげで、日本国内だけで60万本も売れたとの説もあります。それがウィル・ライト氏の経済的な後押しになり、ひいては『シムシティ』を世に出す上で大いに貢献したかもしれません。
(多根清史)