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戦う巨大ロボ なぜ人が乗り込むの? 遠隔操縦が主流にならない現実的なワケ

「ガンダム」シリーズなどいわゆる「リアルロボット」路線のアニメ作品に登場するロボットには、どれほど未来が舞台でもおおむね人が搭乗します。遠隔操縦が主流にならないのには、作劇上の都合だけではない、現実的な理由がありました。

立ちはだかるのは「光速の壁」

「ガンダム」シリーズの宇宙世紀では、時代が進んでもMS/MAは有人式が主流。画像は映画『閃光のハサウェイ』キャンペーン「ノア家のアルバム」より『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の1シーン (C)創通・サンライズ
「ガンダム」シリーズの宇宙世紀では、時代が進んでもMS/MAは有人式が主流。画像は映画『閃光のハサウェイ』キャンペーン「ノア家のアルバム」より『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の1シーン (C)創通・サンライズ

 戦うロボットを描いたアニメ作品、特に「リアルロボット」路線の作品においては、人間が直接機体に搭乗し、自ら操縦桿を握るという設定が、長らく不動の定番として親しまれてきました(例外もあります)。一方、現実の軍事技術に目を転じると、無人航空機(UAV)や遠隔操縦による戦闘システムが目覚ましい進化を遂げており、その運用はすでに実戦レベルに達しています。にもかかわらず、フィクションの世界では依然として「搭乗型」が主流であり続けるのは、なぜなのでしょうか。そこには物語構造上の演出意図に加え、現実世界における技術的制約が色濃く影を落としているといえるでしょう。

 現実の戦場において遠隔操縦型兵器を有効に機能させるには、操縦者と機体のあいだで安定かつ高速な通信環境が不可欠です。しかし、地球の曲率という自然条件によって、「見通し線(Line of Sight=LOS)」の問題が立ちはだかります。つまり、遠距離通信においては地平線が電波の障壁となり、直接的な通信が成立しなくなってしまうのです。

 たとえば、仮に機体の全高が20mのロボットの頭部にアンテナを設置した場合、LOS通信が可能な範囲はおおむね半径15km以内に限られます。一方、飛行高度1000mに達する無人航空機であれば、見通し距離は約112kmまで拡大されますが、それでも戦域全体をカバーするには不十分といえるでしょう。

 この通信距離の制約を克服するために導入されているのが、人工衛星を利用した通信手段(SATCOM)です。静止軌道上にある通信衛星を経由することで、理論上は地球の半球をカバー可能となり、複数の衛星を中継すれば全地球的な通信網を構築することも可能になります。アメリカ空軍が運用する高性能無人機「MQ-4 グローバルホーク」や「MQ-1 プレデター」は、地球上のほぼ任意の地点において作戦行動を展開可能でありながら、その操縦者はアメリカ本土の作戦センターに留まったままでいられるという、まさに遠隔操縦の到達点ともいえる存在です。

 しかし、SATCOMにも克服すべき課題が存在します。まず、通信にともなう「遅延」の問題です。電波は光速で伝わるとはいえ、地上から静止衛星までの往復距離は無視できるものではなく、特に地球の裏側となると、作戦センターから静止衛星を中継した機体までのあいだの送受信(=通信の往復)にかかる時間は、約1秒にも達します。

 この決して小さいとはいえないタイムラグが、瞬時の判断と反応が求められる戦闘行動においては致命的な障害となりうるのです。実際、「グローバルホーク」などの無人機では、巡航中にはSATCOMを利用しつつ、着陸や離陸といった繊細な操作が必要な場面ではLOS通信へと切り替える運用が採られています。

 さらに、人工衛星通信には高度な指向性アンテナが求められるという制約もあります。常に衛星の方向へ正確にアンテナを向け続けなければ、通信の安定性が確保できません。戦闘中の無人機やロボットが高速で機動しながら、衛星の位置へ正確にアンテナを向け続けることは、技術的にも運用的にも極めて困難な課題です。

 加えて、あらゆる通信手段は電子妨害(ジャミング)に対して脆弱です。敵が意図的に電波を妨害した場合、遠隔操縦機は突如として操縦不能に陥り、機能を停止せざるを得なくなるリスクをはらんでいます。このような脆弱性は、有人機や有人ロボットに比して明確な弱点であり、技術的なハードルを越えられないまま、無人戦闘機が完全な実用化に至っていない一因ともなっているのです。

 有人操縦型であれば、パイロットが現場で即時に状況を判断し、通信に頼ることなく自律的に行動方針を変更できます。これこそが、フィクション世界における「人間搭乗型」ロボットの根強い存在意義であり、また現実においても、複雑化する戦場における瞬間的な判断力という点で、人間の直観と柔軟性が、いまだコンピューターを凌駕していることの証左なのかもしれません。

(関賢太郎)

【画像】こちら旧日本陸軍が開発した遠隔操縦の巨大ロボです

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