宮崎駿も久石譲も最初は激怒? 『崖の上のポニョ』主題歌に「サラリーマン」が起用された理由
親しみのあるメロディーと歌詞でおなじみの『崖の上のポニョ』主題歌の、後ろでギターを弾いて歌っているおじさんは一介のサラリーマンでした。
宮崎駿監督が叱責して、久石譲さんが本気で怒った

宮崎駿監督の『崖の上のポニョ』でとりわけ印象に残るのが、「♪ポーニョポニョポニョさかなのこー」と歌われるエンディングテーマ「崖の上のポニョ」です。この曲は『となりのトトロ』の「さんぽ」のように、後々まで歌い継がれる曲を作りたいと考えた宮崎監督のアイデアから生まれました。
歌っているのは、当時8歳だった子役の大橋のぞみさんと、フォークデュオの藤岡藤巻のふたりです。懸命に歌っている大橋さんと、その後ろで歌っているおじさん、ギターを弾いているおじさんの姿を覚えている人も多いかと思います。
同曲は久石譲さんが作曲し、ちょうど保育園ぐらいの娘さんがいた作画監督の近藤勝也さんが作詞を担当しました。そこで問題になったのが、「誰に歌ってもらうか」でした。その際に鈴木敏夫プロデューサーの頭に浮かんだのが、元はフォークバンドの「まりちゃんズ」で活動し、2000年代に入ってからまりちゃんズのメンバーだった藤岡孝章さんと藤岡藤巻として活動していた、藤巻直哉さんです。
藤巻さんは当時、博報堂の社員でスタジオジブリの製作委員会のメンバーでした。なぜ、鈴木プロデューサーは一介のサラリーマンに、大作の主題歌を任せようと思ったのでしょうか。著書『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』(文春新書)で、当時のことを回想しています。
「これがまあ本当に働かない男で、いつものらりくらりと遊んで暮らしている。何とかして彼に仕事をさせるというのが、僕の人生の課題にもなっていたんです。そんなときに、ポニョの歌の話が出てきた。(中略)そこで、僕は一石二鳥の手を思いつきます。彼に歌わせたら、いい雰囲気が出るかもしれない。そして、主題歌を歌うとなったら、さすがの彼も映画の宣伝に一生懸命にならざるをえない――」
こうして『ポニョ』の主題歌を藤岡藤巻が担当することになり、ポニョ役のオーディションに参加していた大橋さんが加わって「藤岡藤巻と大橋のぞみ」になります。藤巻さんが歌っている人、藤岡さんがギターを弾いている人です。
しかし、このような思いつきを通して、問題はなかったのでしょうか。実は、鈴木プロデューサーはこっそり藤巻さんに歌ってもらっている現場を宮崎監督に見つかり、「おふざけもいい加減にしてください!」と叱責されています。ところがスピーカーから流れてきた藤巻さんの歌声を聴いた宮崎監督は「意外にいいよ。いけるかもしれない」と、上機嫌になったそうです。
作曲の久石さんはどうだったのでしょう。久石さんは鈴木プロデューサーから人選を告げられると顔色が変わり、レコーディングも途中で退席して帰ってきませんでした。本気で怒っていたのです。
主題歌発表記者会見には久石さんも同席しましたが、鈴木プロデューサーとは一切口をききませんでした。しかし、ステージ上で真剣に歌う3人の歌声を聴いて納得し、鈴木プロデューサーとも和解したそうです。その後、久石さん指揮のオーケストラをバックに3人が歌うコンサートも行われました。
ちなみに藤巻さんと藤岡さんが、大学生時代に尾崎純也さんと3人で組んでいたまりちゃんズは、リリースした曲のほとんどが放送禁止になったという過激なバンドで、怪曲「尾崎家の祖母(おざきんちのばばあ)」が90年代にリバイバルヒットしました。ぜひこの機会にお聴きください。
(大山くまお)
