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【シャーマンキング30周年への情熱(27)】改めて振り返る、異色の主人公・麻倉葉の奥深さ

バトル作品では異質でも、物語の中心にいるべき存在

葉の仲間として、ライバルとして行動をともにする道蓮は、作中で戦意をむき出しにして緊張感を高める場面が多い。画像は道蓮が描かれた『SHAMAN KING KC完結版』9巻(講談社)
葉の仲間として、ライバルとして行動をともにする道蓮は、作中で戦意をむき出しにして緊張感を高める場面が多い。画像は道蓮が描かれた『SHAMAN KING KC完結版』9巻(講談社)

 ではここからは、麻倉葉についてさらに掘り下げて考えてみようと思います。

 麻倉葉のようなキャラクターは『シャーマンキング』でなければ生まれてこなかっただろうと筆者は思います。「シャーマン」とひと口に言ってもその定義は広いのですが、基本的には自分の身体に「何か」を憑依させるところから始まります。自分を「器」としてそれを迎え入れるためには、余計な自我は不要です。するとシャーマンに求められるのは、落ち着いた静かな心や、何ごとにも動じない精神力ということになるでしょう。

 これはバトルマンガに通常求められる主人公像とは反対で、むしろ師匠やライバルの位置付けでしょう。主人公はそういう人物と接することで成長することになる……というパターンです。しかし『シャーマンキング』であれば、これこそが主人公像ということになるため、逆にライバルの道蓮(タオ・レン)やホロホロなどに熱血要素が割り当てられていると見ることができます。

 このように、麻倉葉は一見すると風変わりな主人公ですが、作品のテーマに沿った最適な存在であることがわかります。そして『シャーマンキング』は構造的には、「無私無欲で悟りを求める修行僧が、さまざまな人や出来事を通じて道を究めていく話」……わかりやすい例えでは、仏陀(ブッダ)の人生を描いた物語に近いものがあり、武井先生が前作『仏ゾーン』以来描いてきたテーマとも合致した、一貫性のある作品と言うことができるのです。

 こうした構造から生み出された主人公の言葉や生き様が、現代に生きる私たちに響くのは納得です。またそのメッセージが単純ではなく、「解釈」が必要というのもわかります。例えばお坊さんは、人の生き方を上から決めつけたような言葉で説くことはまずありませんし、他人を蹴落として自分が上がることも良しとしません。人には上も下もなく、成長はともに行うものだと言うでしょう。これは、葉の言動に通じるものがあると筆者は思うのです。

 さて、読み説こうと思えばいくらでも深掘りできる「強度」を持った『シャーマンキング』ですが、それもこれもまずは皆さんに楽しんでいただかなければ意味がありません。「入り口は広く、中は深く」ですね!

 テレビアニメの放送開始まで、あと半月を切りました。広く皆さんに届き、多くの方が深みにはまることを願っています!

(タシロハヤト)

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タシロハヤト

美少女ゲームブランド「âge(アージュ)」の創立メンバーで、長らくシナリオ、演出、監督等を務める。代表作は「君が望む永遠」シリーズ、「マブラヴ」シリーズ。現在はフリーで活動中。『シャーマンキング』の作者、武井宏之氏と旧知の関係である縁から、同作の20周年企画に参加している。
https://twitter.com/tamwoo_k