松本零士氏が戦場の悲惨さを描いた『ザ・コクピット』 元パイロットの父からの影響も
日本初の「有人ロケット」にまつわる悲劇

全3話のなかでも、平和な日本で暮らす私たちがもっとも衝撃を受けるのは第2話「音速雷撃隊」ではないでしょうか。太平洋戦争末期となる1944年、日本海軍が実際に開発した最新鋭のロケット機「桜花」のパイロットを主人公にしたものです。劇場アニメ『機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光』(1992年)の今西隆志監督の作品です。
主人公の野上少尉(CV:緑川光)は、ロケット工学を学んでいましたが、パイロット不足から新しく開発された「桜花」の操縦士として出撃することになります。美しい名前の「桜花」ですが、この機に搭乗した者は二度と帰ってくることができません。日本初の有人ロケットである「桜花」は、音速で敵機の攻撃を振り切り、敵艦に体当たりするための特攻専用機だったのです。
日本海軍の爆撃機である「一式陸攻」を母機に、「桜花」は敵艦に接近してから降下発進することになります。野上少尉の特攻を成功させるために、「一式陸攻」の搭乗兵や護衛機も命がけで「桜花」を守ろうとします。
もしも戦争がなければ、もしも野上少尉のような若者たちが生き残っていたら、日本のロケット史は大きく変わっていたかもしれません。海軍の命令で「桜花」を開発した技術者は、戦後は鉄道開発に尽力し、世界でもっとも事故の少ない交通機関「新幹線」を設計したことが知られています。
ロボットアニメ『装甲騎兵ボトムズ』の高橋良輔監督による第3話「鉄の竜騎兵」は、やはり日本軍の敗戦が色濃く漂う終戦間際のフィリピンが舞台です。戦場に取り残されたベテラン兵・古代一等兵(CV:永井一郎)と若い宇都宮一等兵(CV:山口勝平)はサイドカーに乗って、敵地を駆け抜けることになります。「音速雷撃隊」と同様に米軍側の視点も入っており、戦争の残酷さがしっかりと伝わってきます。
戦闘機のパイロットだった父親からの影響
太平洋戦争中、松本零士氏は母親の実家のある四国の山奥で疎開生活を送っていました。米軍の爆撃機B-29が頭上を飛び、広島や神戸へと向かう様子をたびたび見ていたそうです。父親の松本強さんは日本陸軍のパイロットとして戦地に赴き、南方で抑留されていたために日本に帰国したのは終戦から1年が過ぎてからでした。父親が無事に帰ってきたことが、うれしくてたまらなかったと松本零士氏は語っています。
公職追放のために仕事に就くことが難しかった父・強さんは、しばらくは山で炭焼きをすることになります。炭焼きの火の番をする強さんから、少年時代の松本零士さんはいろんな話を聞かされます。南方の夜の海を飛ぶと、海には星空が映り、まるで星の海を飛んでいるかのような美しさだったと言います。その一方、戦場で部下たちを死なせてしまったことに対する罪の意識も、父親の姿からは感じたそうです。
その後、上京してマンガ家になった松本零士氏は、SFアニメ『宇宙戦艦ヤマト』のなかで父・強さんをモデルにした沖田艦長を描くことになります。
松本零士作品には未知なる世界へのロマン、それと同時に戦争がもたらす悲惨さも描かれています。父・強さんからの影響が大きかったようです。また、父親の不在時に一家を守り続けた母親への感謝も、練馬の自宅兼アトリエで語ってくれました。大好きだった両親の待つ宇宙へ、「銀河鉄道999」に乗って旅立った。松本零士氏の死去には、そんな壮大かつロマンチックなイメージが感じられます。
(長野辰次)





