『包丁人味平』 ひとりの男を料理の世界に導いた、「料理マンガ」のパイオニア
1970年代に連載されたマンガ『包丁人味平』は、主人公がライバルと料理で勝負するという形のグルメマンガとしては最初期にあたる作品です。実際に、同作を読んだことがきっかけで料理人への道に進んだという人もいます。
『男が料理をする」という考えが珍しい時代に「夢」を見せた
子供の頃に見たテレビ番組やマンガがその後の人生に影響を与えること、たとえば『巨人の星』を見てプロ野球選手に憧れたり、『タイガーマスク』を見てプロレスラーを夢見たり……といった思い出を持つ方はたくさんいらっしゃると思いますが、後の人生でそれを実現した人は、それほど多くないのではないでしょうか?
逆をいえば、万人がなれるわけではない『プロスポーツ選手』だからこそ、マンガのなかの選手は私たちに『夢』を与えてくれる存在といえます。「その道のプロ」になるには、どんな職種であろうと地道な努力と修行の積み重ねが不可欠。どれも一朝一夕では叶いません。
これまで数多くの「職業」がマンガの題材として取り上げられてきましたが、そのなかでも「料理人」にスポットを当てたパイオニア的作品が、1973年~1977年にかけて集英社「週刊少年ジャンプ」で連載された『包丁人味平』(原作:牛次郎 作画:ビッグ錠)です。
現在、東京・浅草でフレンチレストラン「ナベノイズム」を営み、『ミシュランガイド東京2020』で2年連続「二ツ星」を獲得した渡辺雄一郎シェフは、幼少期に読んだ『包丁人味平』がきっかけで現在の道に進んだと語ります。
「1967年生まれの私にとって、『包丁人味平』という作品は『調理師』という職業を意識するひとつのきっかけでした。昭和時代の子供にとって『男が料理をする』という考えは珍しいものでしたが、この『味平』とTBSで土曜の夕方に放送されていた『料理天国』(1975~1992年)に影響を受けたことは間違いありません。高校卒業後、私が『大阪あべの辻調理師専門学校」へ進んだのも、『料理天国」に出演されていた小川忠彦先生や辻静雄先生から料理を学びたかったからです」
渡辺シェフは「大阪あべの辻調理師専門学校」を卒業後、フランスでの修行を経てから東京の「ル マエストロ・ポール・ボキューズ東京」、「タイユヴァン・ロブション」、「ジョエル・ロブション」を経て今に至るのですが、「きっかけではあるものの、料理人として『味平』から影響を受けたことはありません」とも、(苦笑気味に)振り返ります。
その理由は、ある意味「昭和の劇画」らしい、同作の料理描写にあります。