手塚治虫『火の鳥』の、ゾッとする名作エピソード。怪談よりも怖い、人間たちの末路…
「怪談」といえば夏の風物詩のひとつでもありますが、幽霊や妖怪が登場する怖い話とは違った意味でゾッとする怖い話の数々が、手塚治虫の名作マンガで描かれています。特に、代表作のひとつ『火の鳥』では、忘れられない恐怖エピソードが読者を引き込んでいきます。
自分のクローンが大量に誕生して……
1954年に発表された手塚治虫の名作マンガ『火の鳥』は、その血を飲めば永遠の命を手に入れられるという伝説の火の鳥をめぐって、過去から未来、地球から宇宙へとさまざまな舞台でドラマが描かれます。エピソードごとに「○○編」と名づけられているのですが、なかには思わず背筋がゾッとする話も多くあります。
今回は「怪談よりも怖いのでは?」と思わせる『火の鳥』の名作エピソードをご紹介します。
●クローン人間を狩る……「生命編」
まずは「生命編」より、クローン人間をテーマにしたエピソードです。主人公は青居というTVプロデューサー。狩猟用のクローン動物を銃でハントするという過激な番組を手がけていた彼ですが、視聴率が上がらず、新たなアイデアを考えます。
それは、クローン人間を作ってそれを人間にハントさせるというもの。クローンとはいえ人間を殺すのは法律違反だと周りから反対されますが、青居は「体のどこか一部分でも人間と違えば法律は適用されない」という理由を持ち出して、この企画を強行しようとします。
青居がクローン人間を調達するべく向かったのはアンデスの奥地。しかし、ここで青居の運命は大きく変わります。研究所の所長にクローン人間を作ることを強く反対された青居でしたが、研究員の猿田の案内で鳥の顔を持った不思議な娘と出会います。その娘は、野菜、動物、人間など、あらゆるクローンを作れる火の鳥の技術を持っていました。
ここで青居はクローンを作り出す培養液の池に落下。あろうことか自分のクローンが何人もできてしまうのです。大勢のクローンに紛れてしまった青居は「自分はオリジナルの青居だ」と説明するもスタッフたちには信じてもらえず、自分が番組のなかでハンターから狙われる標的となってしまいます。
なんとか逃げ延びた青居は、道中で助けた少女・ジュネと人目を避けて森で暮らし始め、人間としての心を取り戻します。そして自分がやろうとしたことを「なぜあんなバカなことを言ったんだろう」「マスコミの中にいて踊らされてたんだな。視聴率と人気の狂気の中で……」と後悔。最後は自らクローン人間の工場へ行き、自爆することで決着をつけるのでした。
過激さを求めるあまり「クローン人間をハントする企画」を思いつく発想も怖いですが、そこから自分のクローンが生み出され、自分が狙われる側になるという展開は、怪談とは違った恐ろしさを感じさせます。