『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のラスボス、キングギドラの鮮烈すぎるデビュー
『ウルトラマン』に受け継がれる脚本家の系譜
本多監督が円熟の演出ぶりを見せた『地球最大の決戦』のシナリオを担当したのは、『モスラ』(1961年)や『モスラ対ゴジラ』(1964年)も手掛けた関沢新一です。関沢の脚本は、どれもストーリーが明快かつテンポがよく綴られ、怪獣たちは気持ちのいいほどの暴れっぷりを見せてくれる娯楽作ばかりです。
関沢の描く怪獣たちは、人間たちが畏敬の念を抱く異形の荒神、エキゾチックさを感じさせる巨神のような存在です。そんな怪獣たちがまるでプロレスのバトルロイヤルのようにぶつかり合う陽気さが、関沢脚本には感じられます。
『空の大怪獣ラドン』(1956年)や『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)の脚本家・木村武、本名・馬淵薫の哀愁漂う怪獣たちとは、真逆の魅力が関沢脚本にはあったのです。陰と陽、月と太陽、馬淵薫と関沢新一というタイプのまったく異なる2人の脚本家がいたことで、東宝特撮映画は多種多様な作品が生み出されたのです。
『地球最大の決戦』が公開された1964年は、東京五輪開催の年でもあり、テレビが一般家庭へと普及し、映画界は徐々に斜陽の時代を迎えることになります。
そんななか、ゴジラブームに続く「怪獣ブーム」を呼ぶことになったのが、円谷英二が監修した特撮ドラマの金字塔『ウルトラマン』『ウルトラセブン』(TBS系)です。これらを成功に導いた若き脚本家・金城哲夫は、円谷英二の紹介で関沢に師事し、シナリオの書き方を身につけたといわれています。
ウルトラマンらが怪獣や宇宙人をやっつけて、地球の平和を守るという1話完結の分かりやすいストーリーは、関沢譲りのもののようです。
その一方で金城は、『ウルトラセブン』の第42話「ノンマルトの使者」のような、人類のアンデンティティーに疑問を投げかける問題作も発表するようになります。「ノンマルトの使者」には関沢色はなく、馬淵薫寄りの社会派作品となっています。東宝特撮シリーズで真逆の魅力を放った関沢新一と馬淵薫という2つの才能は、テレビでも大きな影響を与え続けたといえるでしょう。
(長野辰次)