【シャーマンキング30周年への情熱(44)】シャーマンの強さを決める「思い」の残酷さ
2021年4月から放送中のTVアニメ『シャーマンキング』第23話。シャーマンファイト本戦で繰り広げられた、葉たち「ふんばり温泉」チームとアイスメンの試合は、ある意味で残酷な戦いでした。前週放送の内容とともに、その意味を考えます。
「シャーマンは思いひとつ」を痛感させられた、葉の初戦

2021年9月16日(木)放送のTVアニメ『シャーマンキング』第23話は、先週の22話と連続で1回戦第3試合、「ふんばり温泉」チームと「アイスメン」の戦いでした。その前に行われた「X-I」の試合は血なまぐさい終わり方でしたが、この試合も残酷という意味では辛い戦いが描かれていたと思います。
アイスメンは、自分たちの育った環境や生い立ちの過酷さを乗り越えたことで生まれた高いプライドを持ち、負けることはこれまでの人生を全否定されるにも等しい、決死の思いを抱いていました。特にゾリャーは幼少期、恐らくロシア(当時はソ連)の施設でシャーマン能力を研究……という名の人体実験の犠牲になっていたようです。
こうしたチームは、苦戦はしつつも最後は試合に勝つ……というのが割と目にする展開だったりするのですが、今回はそうではありませんでした。葉たち「ふんばり温泉」チームには手も足も出ず完敗を喫します。しかも葉たちはアイスメンにひとつも苦戦しないのです。それどころか、試合前の食堂で言い放った「たぶん一発で勝つ」がそのままでした。
これは、「主人公は負けないもの」というご都合の結果ではなく、どんなに苦労しようが、重いものを背負っていようが、シャーマン能力が弱ければ負けるという、シャーマンファイトのシンプルさと厳しさが表面化しただけのことです。
作中では常々「シャーマンは思いひとつ」だと言われていますが、その思いが「こうでなければならない」という制約はありません。ユルく生きたいとか、女の子にモテたいとか、愛する妻と再会したい……など、命懸けで苦労をしてきた人から見れば大したことがないような思いであっても、それが強ければ負けないのです。
22話でエリザに会いたくて大会に参加したファウストVIII世の動機を「くだらねー理由」と言ったピノに、葉は「何が大事かは人の勝手だ。そいつが本気でやってりゃ上も下もねぇだろ」と返しますが、それはまさに射た言葉だったといえるでしょう。
これは「苦労が報われるわけではない」という言葉に集約されます。その現実を突きつけるという意味で、この試合は残酷だったと思いませんか? そしてそれは私たちにも言える話で、ある意味ではシャマシュの裁きで人が死ぬという、創作物でしかあり得ない展開よりも辛い話だったかもしれませんね。