【シャーマンキング30周年への情熱(60)】麻倉葉が掲げる「楽さ」は視聴者への問いかけか?
TVアニメ『シャーマンキング』第44話で飛び出した「あいつ友達いねぇだろ」の爆弾発言に込められた作品の意図は? 葉の技「無無明亦無」がなぜ巫力無効化の技名なのか……? 今回もさまざまな視点で掘り下げて解説します。
「大切なことは心で決める」の意味を改めて考える
2022年2月17日に放送されたTVアニメ『シャーマンキング』第44話では、「アンナの正体」についてはあるのかないのかも含め、残念ながら有耶無耶になってしまいましたね。しかし、麻倉葉がアンナについてそんなものはないと言い切るのなら、それで良いと思います。彼は正体を知りたくないのではなく、どんなことになっても受け入れる覚悟を示したからです。
「ない」というのはその場を終わらせる言葉に過ぎず、「正体があろうがなかろうがどっちでも関係ない」というのが真意です。だから落ち着いて平然としていられたんですね。普段はアンナの尻に敷かれている葉ですが、懐(ふところ)の広さは半端ではありません。
それが見えたのが、「ハオとコーヒーを飲む」という行為です。主人公とラスボスがそんなことをする展開自体が珍しいのですが、さらに「相手の心が読める」ハオと向かい合って葉が考えていたのは「ハオには友達がいない」ということでした。シャーマンキングになって力で世界を支配しようとするハオに対し、葉はみんなで楽になろうと考えています。たとえ試合で対立しても、終わればノーサイドというのが理想です。
しかし、心を読んで力づくで支配しようとする相手を、普通は誰も受け入れません。ハオ組ですらダメでした。だから葉は、せめて自分は彼と向かい合おうとしたのでしょう。そうしないと葉がシャーマンキングになって世界が平和になった時、ハオの隣に誰もいないことになってしまうからです。
葉はハオに心で勝てると思っていますが、常々言われている「シャーマンは想いひとつ」に照らせば、確かに可能性はまだあります。
それにしても本作は、難しいテーマを扱っていると改めて思います。葉は人それぞれの「楽さ」を実現しようと考えていますが、これはとても曖昧です。正義と悪の対立ではないのでハオを倒すこともゴールにならず、かといって「楽さ」とは何かを確定的に説明するのも困難です。「何が楽なのか」は人によってまったく違うはずです。
そう考えると本作は、葉の主張を読者に理解してもらうというよりも、「葉は自分の答えを示したが、あなたはどう思うか?」を問いかけている作品なのではないかと筆者は感じました。そう考えると「大切なことは心で決める」というフレーズが心に刺さってきます。筆者は日々の状況に流されることが多い気がします……(汗)。