ゴジラの「噛ませ犬」じゃない! 平和の怪獣「モスラ」が映画史に残した影響
宮崎駿監督『風の谷のナウシカ』に影響も?
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では、中国の雲南省がモスラの出身地となっていますが、原作小説および東宝特撮映画では、南洋の孤島インファント島がモスラの故郷です。
インファント島で原住民たちから崇められる、巨大な卵から孵化した幼虫モスラは、まるでチョココロネのような愛らしい造形でした。
ちょこちょこと動くモスラは太平洋を泳ぎ、日本に上陸。高度経済成長のシンボルである東京タワー(原作では国会議事堂)に向かって糸を吐き、巨大な繭を作ってしまいます。都心に突如現われた巨大繭によって、首都機能は麻痺状態に。さらに繭からは極彩色の成虫モスラが飛び出すのです。
巨大怪獣が4段変身を遂げるというこのサプライズな設定は、『シン・ゴジラ』(2016年)のゴジラが第1形態(東京湾)、第2形態(蒲田)、第3形態(品川)、第4形態(鎌倉)と変態していく様子に受け継がれています。人知を越えた姿へと変容していく怪獣、それがモスラだったのです。
モスラのもうひとつの特徴は、コミュニケーション能力があるということです。インファント島で暮らす小美人(ザ・ピーナッツ)のテレパシーに感応し、小美人に危険が迫ると、体を張って守ろうとします。
宮崎駿監督は東映動画時代に『モスラ』を劇場で観たそうです。宮崎監督のブレイク作『風の谷のナウシカ』(1984年)では、主人公ナウシカと王蟲(オーム)と呼ばれる巨大生物が心の声で通じ合うシーンが感動的に描かれていましたが、どうやら宮崎監督は『モスラ』からかなり影響を受けていたようです。
インファント島の守り神である一方、東京を壊滅状態に陥れるという二面性を持つ怪獣モスラがいなければ、名作アニメ『風の谷のナウシカ』は誕生せず、怪獣と人類との共生を謳う『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』も、ずいぶん違った内容になっていたのではないでしょうか。
双子の女性デュオ、ザ・ピーナッツがインドネシア語で神秘的に歌う「モスラの歌」が流れる怪獣ミュージカル映画『モスラ』を、ぜひ一度ご覧になってみてください。
(長野辰次)