漫画『タイガーマスク』に登場した実在レスラー リアルとファンタジーの巧みな融合?
実在レスラーに夢を抱かせたフィクション描写

『タイガーマスク』には、虎を素手で一撃で倒してしまう『ブラックバイソン』や、5台連結された観光バスをいとも簡単に引っ張る獣人『ゴリラマン』などのトンデモキャラが、レスラー養成組織「虎の穴」の刺客として多数登場するのですが、もちろん、主役のタイガーはそれら難敵にもことごとく勝利します。
そのタイガーをしてもアタマが上がらない「馬場せんぱい」や「猪木せんぱい」がどれだけ強いのか……きっと当時の少年たちは、(過剰なまでに)夢を膨らませながらテレビのプロレス中継を観戦していたことでしょう。
ちなみに、孤児院「ちびっこハウス」の健太少年がアルプスの山中にある「虎の穴本部」にさらわれ、タイガーマスク以下、馬場や猪木、吉村道明に大木金太郎、グレート小鹿と上田馬之助が救出に駆けつけるのですが、何故かプロレスのコスチュームでゴリラやヒョウと闘うハメになってしまうシーンも、プロレスラーの超人的な強さを伝えています。
また物語終盤の「悪役ワールドリーグ戦」は、「虎の穴」崩壊後のため、参加するレスラーたちもほとんどが実在の人物。黒電話の受話器をバリバリと噛み砕くフレッド・ブラッシーやリング上でタイガーにガソリンをかけ、火を着けるディック・ザ・ブルザーなど、「虎の穴」の刺客たちも真っ青な姿で描かれています。
このように、リアルとファンタジーを織り交ぜる「梶原ワールド」は、後の『プロレススーパースター列伝』(作画・原田久仁信)へと続くのですが、実在のレスラーたちをドキュメント・タッチで描いたこの作品の「ウソ」に騙された読者も多いのではないでしょうか?
筆者もそのひとりです。その中での「タイガーマスク編」で、当時はまだ正体不明扱いだった初代タイガーをあっさり「佐山サトル」とバラしてしまうのも、ともすれば梶原一騎という稀代の劇画作家の最も「悪魔的」な部分なのかもしれません……。
最後に、その初代タイガーマスクが、「ザ・タイガー」に改名せざるを得なかった一件については、不死身仮面アズテカ風(列伝・マスカラス編に登場)に「教えちゃソンだ、あばよ!」とだけ申しておきましょう。
(渡辺まこと)