漫画『タイガーマスク』に登場した実在レスラー リアルとファンタジーの巧みな融合?
「昭和の劇画王」として数々の名作を残したマンガ原作者、梶原一騎氏の代表作とされる『タイガーマスク』には、当時実在したプロレスラーが多数登場して活躍していました。現実とフィクションを融合させたストーリーと描写は、その強烈な印象とともに多くのファンに記憶されています。
絶対的存在として描かれた「ジャイアント馬場」

1973年に公開されたオカルト映画の金字塔、『エクソシスト』のメリン神父の言葉に「悪魔はウソつきだ。そのウソに真実を織り交ぜて、我々を攻めるのだ。それは心理的で非常に強力だ」というセリフがあります。
その法則が見事に当てはまる、とまでは言いませんが、「昭和の劇画王」の異名を持つマンガ原作者、梶原一騎氏(1936-1987年)が残した作品たちには、まさに「悪魔的」に人の心をつかむパワーとオモシロさがあるのかもしれません。
「フィクションの中にノンフィクションを織り交ぜる」という梶原氏の手法は、1966年に少年マガジン誌で連載開始した『巨人の星』(作画・川崎のぼる)でも見られますが、それより以前の『タイガーマスク』(作画・辻なおき)にも実在のレスラーが数多く登場し、ファンタジーとリアルが巧みに織り交ぜられています。
そのことが黎明期のプロレス界、そこに実在するレスラーたちに対して強い「幻想」を抱かせる要因のひとつとなっていたことは、間違いないと思います。
このタイガーマスクの連載がスタートしたのは1968(昭和43)年。日本のプロレスの父、力道山が亡くなった後、芳の里社長時代のお話なのですが、当時のリングではジャイアント馬場が絶対的なエースとして君臨しています。
劇中では、タイガーを空港に迎えに行った同僚としてアントニオ猪木や吉村道明などが登場するのですが、あくまでも格上は馬場。幼少時代、ガチガチの猪木派だった筆者(1969年生まれ)から見ると信じられない図式ですが、映像などで見られる日プロ時代の馬場は、アンチでも認めざるを得ない強さを感じさせるものです。
その馬場が『タイガーマスク』の劇中では「覆面ワールドリーグ戦」で正体バレバレのマスクマン、「グレートゼブラ」に扮してタイガーマスクを助けたり、レフリーにバレないように行ったタイガーマスクの反則行為(ディック・ザ・ブルーザーの喉元へのトゥキック)を諭したりと、物語のキーマン的に描かれています。それに比べて、女優の賠償美津子と結婚前のアントニオ猪木は、かなり影薄めの扱いになっています。